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二人三脚で挑む寺倉千枝子さん、富士夫さん
「在宅介護」回復願い、夫婦の歩みブログに

社会 | 神奈川新聞 | 2017年6月29日(木) 10:25

寺倉千枝子さん(左)と富士夫さん。在宅介護で回復の努力を続けている=横浜市磯子区
寺倉千枝子さん(左)と富士夫さん。在宅介護で回復の努力を続けている=横浜市磯子区

 心臓の手術後に起きた合併症で寝たきりになり、気管切開と胃ろうをした女性が、夫と共に在宅での回復に挑んでいる。嚥下(えんげ)や歩く訓練を日々繰り返し、介護する夫がその様子や自分の気持ちなどをインターネットで発信。夫婦二人三脚で、回復の可能性を信じて取り組んでいる。

 横浜市磯子区の寺倉千枝子さん(68)は、夫の富士夫さん(71)と2人暮らし。日本百名山を完登するなど活動的だった千枝子さんが倒れたのは、2013年7月だった。

 14時間に及ぶ大手術を受け、気管切開と胃ろうも行われた。手術は成功したが合併症を起こして寝たきりになり、1年4カ月入院。療養病棟や施設入所も勧められたが、「自宅に帰したい」という富士夫さんの希望で、14年11月から在宅での介護が始まった。

 千枝子さんは要介護5。身の回りの世話に加え、胃ろうの注入、気管切開したのどからのたんの吸引、投薬管理など多くのケアが必要で、24時間目が離せない。体調の悪い千枝子さんが一晩中富士夫さんを呼び続けたこともある。自宅での暮らしを望んだが、「介護の自信はなかったし、参考にできるものもなかった」という富士夫さんは介護の知識を懸命に学んだ。

 一方で、「つながるところはないか、自分から発信しなければ」というオープンな考え方で、入浴介助やヘルパー、言語訓練などの介護サービスを積極的に利用。千枝子さんの一日の様子を日誌に書き、事業者らと共有して介護してきた。

□□□ 寝たきりの千枝子さんに、希望の光が差したのは15年の夏だった。

 自宅に戻ってから、ベッドに座ったり、口からものを食べたりする練習を夫婦でしていたが、訪問診療の主治医の紹介で横須賀市内の病院で嚥下機能を検査することになった。入院し、状態も良かったことから、体のリハビリも同時に行うことになった。


千枝子さんのリハビリの様子(富士夫さん提供)
千枝子さんのリハビリの様子(富士夫さん提供)


 長く寝たきりだったため筋力が落ち、足も変形。まずは体を直立させる機械を使って強制的に立ち上がったが、体は何年も体重を支えていないため激しく痛む。千枝子さんは涙を流しながら、それでも「この年齢で、このまま沈没してしまうのは悔しい」とリハビリをやめなかった。歩行や排せつの訓練なども必死で繰り返し、4カ月後に帰宅。「2階にある自宅から担架で運ばれて入院したのに、歩いて退院してきた。近所の人も驚いていた」と富士夫さんは笑顔で振り返る。

 在宅介護の当初から訪問診療している、並木小磯診療所(横浜市金沢区)の安崎弘晃院長(43)は、「大きく回復した成功例。リハビリに熱心な人自体が珍しく、まれなケースではないか」と話す。

 訪問診療を始めた直後は、千枝子さんは「骨と皮だけのような体の状態」だったという。そこから回復できたのは、「脳梗塞など体にまひが残る病気ではなかったこと」と、「千枝子さんがまだ60代で若かったこと」が大きい。「みんながみんな、こうではない。千枝子さんの頑張りと、富士夫さんの献身的な介護、前向きなキャラクターが大きかったと思う」と説明する。

□□□ 千枝子さんは今、自力で歩き、日中はトイレも使っている。スピーチカニューレを使って話もできる。3年近く千枝子さんに施術している在宅訪問マッサージ師の女性は「最初は体に圧をかけることも難しかったが、今は筋力がつき、強めにマッサージができるまでになった」と回復に驚く。

 5月には、友人とバラを見に出掛けた。夢は海外旅行に行くこと。「夢があれば張り合いがある。このまま治らないとは考えていない。“第三の人生”を送りたい」と千枝子さんは力強く話す。

 体は大きく回復したが、リハビリは今後も必要だ。富士夫さんの介護生活も変わっていない。毎日午前5時ごろに起き、千枝子さんの介護事業者が訪問しているときに、富士夫さんが仕事や買い物に出ることもある。5月には、同市金沢区で介護の体験談や日々の工夫についての講演もした。

 退院直後に比べれば安定したが、気が抜けない状態は続いている。富士夫さんが当時から毎日更新しているブログには、「自分が倒れたら妻はどうなるのか」という不安を繰り返しつづってもいる。ただ、夫婦の体験を発信することで、「介護に対する見方が変わってほしい。僕のブログなどを見て、『うちもがんばろう』と思ってくれる人がいてくれたら」。そう願いながら、夫婦でリハビリに励んでいる。

◇ 富士夫さんのブログは、「元・山ガールの松っちゃんはZARDの負けないでが大好き~♪♪」(http://maikalfujio.hatenablog.com/)

「抱え込まず、頼って」



阿部 充宏さん 県介護支援専門員協会相談役
 在宅介護を乗り切るには何が必要か。県介護支援専門員協会相談役の阿部充宏さんに聞いた。

 介護は特別な存在ではなく、人生のステージに必ずあるもの。重要なのは、自分だけで抱え込まないことだ。

 介護は必ずしもハッピーなことばかりではない。「最後の親孝行だから」という気持ちがあっても、それでやっていけるのは3日ぐらい。時間を割かなければならず、ポジティブばかりではいられない。出口の見えないトンネルがふとやってくる。

 だから第三者を介入させて大騒ぎすることが大事だし、騒いだ方が解決に向かう。介護では我慢は得にならない。できない自分を認めて、そこから出なければ乗り越えられない。

 地域でも、最近あのお年寄りを見掛けないとか、庭の草が伸び放題だとか、気が付くことがあると思う。気になることがあったら、地域包括支援センターに伝えてほしい。匿名でいいし、「こんな状況だ」と言えばセンターで対応してくれるはず。何もなければそれでいい。周りが見守る目を持つだけでも違う。

 介護保険は「家族だけでなく、社会で介護しよう」という考え方で始まった。愛情や責任感で介護することも大切だが、頼れるものは頼った方がいい。専門家は、そのためにいる。

 
 

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