「(がん患者は)働かなくていい」。受動喫煙対策について議論した自民党厚生労働部会で議員が発し、物議を醸した問題。全国がん患者団体連合会(全がん連)は、いち早く声明を発表し、患者支援の継続を訴えた。「犯人捜し」や責任追及の陰に隠れがちだが、全がん連の対応には、細やかな配慮と患者を守るという強い信念が込められていた。
バランス
〈残念ながらあまりにも心無い野次(やじ)に私は心底怒りで震えました〉
非公開の部会が開かれた日の翌5月16日。全がん連の天野慎介理事長は、親交がある同党参院議員の三原じゅん子氏(神奈川選挙区)のブログを閲覧していると、予想だにしなかった文面が目に飛び込んだ。「就労を希望しているがん患者の尊厳や希望を否定するもので、患者の就労支援を進める国の動きとも逆行する」。同時に、「あまりの理解のなさに悲しみが込み上げた」という。
やじの確証が得られた17日夜。すぐに全がん連の役員と連絡を取り合い、声明の作成に着手。18日昼ごろにはホームページ上に掲載した。事実確認が取れてから、わずか半日。「ネット社会となった今、誤解であっても瞬く間に広がっていく。患者が不利な立場になるのを防ぐために手を打つ必要があった」。天野理事長は迅速に対応した理由を、こう説明する。
声明の表題を「抗議」ではなく、「見解」としたのも、患者を守るためという。病に苦しむ患者を減らしたいと願う全がん連は、がん患者への社会の理解や受動喫煙対策を広めたい考え。「やじに対して議員個人を責めても、問題の解決にならない。冷静に、本質的な議論を継続できる状況をつくりたかった」。ただ、本文では「がん患者の就労のみならず尊厳を否定しかねない」「受動喫煙防止対策の推進を阻害しかねない」などと指摘し、「抗議」の意を表明した。
全体的な印象に影響する表題は刺激的な言葉を避け、本文で主張することは主張する。それは、社会の反発から患者を守り、建設的な議論を進めようというバランス感覚が働いた結果だった。声明の狙いは、責任の追及ではない。患者を守ること。ただ、それだけだ。
働く不安
「仕事を自由に選べない弱い立場の人に対する理解が不足している。釈明もエクスキューズ(弁解)になっていない」
22日。やじの張本人として同党衆院議員の大西英男氏が謝罪会見を行ったが、天野理事長は釈然としなかった。大西氏は、がん患者らに謝罪したものの、喫煙可能な店舗で無理して働かなくてもいいという意味だったという趣旨の釈明をした。