「今、電話してる場合じゃないんだ」。捜査幹部の緊張と怒気をはらんだ声に、質問は遮られた。「悪いけど切るよ」。通話は途切れた。新幹線で複数人が刺されたらしい-。情報の真偽を確かめようとかけた電話は、それが事実であることを物語っていた。
6月9日夜、新横浜駅を出発した東海道新幹線のぞみ265号(16両編成)は小田原駅へ向かっていた。12号車の後方から3列目、2人掛け座席の左側。立ち上がった無職小島一朗被告(22)の手には、バッグに隠して持ち込んだ「なた」が握られていた。
被告はいきなり、右隣に座っていた女性(26)の頭を切り付けた。異変に気付いて2列後ろの座席から駆け寄った男性会社員=当時(38)=に腕をつかまれたが、振りほどき、通路を挟んで左隣にいた別の女性(27)にも切りかかった。
一度倒された男性は起き上がり、再び被告を制止しようと立ちはだかった。けがを負った女性2人は別の車両に避難できたが、男性はもみ合いの末に執拗(しつよう)に襲われ、殺害された。混乱のまま小田原駅に到着した車内で、被告は現行犯逮捕された。
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「誰でもよかった」「人を殺す願望は昔からあった」「むしゃくしゃしていて、社会を恨んでいた」