今年3月、学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省が決裁文書を改ざんしていた問題が連日報道される中、私は、担当の藤沢支局に残された一冊のノートを読み返していた。
〈善行問題〉
表紙にボールペンでそう記されたノートは、かつて地元の藤沢市政を揺るがし、訴訟にまで発展した土地取引の取材の記録をまとめた資料だった。
証拠として残した公文書がなかったものにされ、行政の嘘(うそ)が公然とまかり通る事態が、再び国で起こっている。そう思った私は、かつて問題の渦中にいた市OBに連絡を入れた。
市で部長職などを務めた沖山登志雄さん(66)。落ち着いた口調ながら、その言葉の端々には危機感がにじみ出ていた。
「10年近く前、藤沢市役所の中で『こういうことが起きるんだ』と身をもって体験した。今、丸写しの状況が目の前で体現されている。同じことがまさか、国というレベルで平然と行われたことに驚きと同時に恐ろしさを感じる」
沖山さんの口からは、当時の生々しい体験と共に、政治と行政の関係に潜む「危うさ」が語られた。
「正義ないがしろに」
市の依頼に基づき、市土地開発公社が善行地区の農地を市内の地権者の男性から先行取得したのは2009年1月だった。数カ月後には市議会などからの指摘により、大きな問題へと膨らんでいくが、沖山さんは公社が取得した当時の経済部長だった。