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ヘイトスピーチ考
時代の正体〈480〉解消法1年(下) 「差別絶つ」私たちの責任

社会 | 神奈川新聞 | 2017年6月10日(土) 10:39

法務省の調査報告書を解説する金明秀さん=3日、都内
法務省の調査報告書を解説する金明秀さん=3日、都内

時代の正体取材班=石橋 学】ヘイトスピーチ解消法施行1年を迎えた3日、差別との闘いに取り組む法律家や研究者らでつくる「外国人人権法連絡会」などが主催した集会。執拗(しつよう)で広範にわたって横行する差別の実相を2人の研究者の報告が浮かび上がらせた。

 社会学者で関東学院大非常勤講師の明戸隆浩さんは現状を紹介した。「デモは減ったといわれるが、ピークの2014年が多すぎたといえる。街宣についてはさほど減少していない」。冒頭から深刻さが伝わる。

 では、中身はどうか。法務省は何がヘイトスピーチに当たるのか、三つの類型を示している。「○○人は殺せ」といった危害の告知。蔑称で呼んだりゴキブリなど昆虫、動物、モノに例えたりする侮辱。「この町から出て行け」「祖国に帰れ」という排除の扇動。明戸さんは順を追って解説していく。

 「まず危害の告知だが、法律ができて『○○人は死ね』といった発言はさすがにしにくくなったと思われているが、『殺す』『処刑する』『消滅させる』というものは引き続きなされている」

 変化は巧妙化という形で表れていた。「『日本人を殺してきた○○人』といった具合に、相手側が先に危害を加えているということとセットになっている。相手側が攻撃しているから反撃している、正当防衛だと彼らは認識している。結果、先ほどのようなおぞましい表現がなされている」

 侮蔑型にも「正当化」が見られる。「『犯罪』『不逞(ふてい)』という単語を『○○人』の前に付けることで、相手が先に問題を起こしているという抜け道を用意するという典型的な表現。集団の暴力性を強調する扇動効果は変わらない」

 「帰れ」「出て行け」という排除の扇動も同様だ。「以前はプラカードやシュプレヒコールで使われていたが、最近はヘイトデモの抗議活動に当たるカウンター市民に向けてなされている。その場面だけ切り取るとカウンターに向けたものに映るが、彼らにはカウンターは全て外国人、在日コリアンだと認識しているという前提がある。そうした文脈を踏まえると、当然、マイノリティーに対するヘイトスピーチということになる」

 その正当化の理屈について明戸さんは「まったく認められない」と逐一否定し、強調することを忘れなかった。「被害当事者からすれば非常に恐怖を感じるものであることに変わりはない」

重大性



 関西学院大教授の金(キム)明秀(ミョンス)さんは法務省が3月に公表した外国人住民調査報告書について解説した。「外国人であることを理由に住宅入居を断られた」が39・3%、「就職を断られた」が25・0%という結果について金さんは強調する。

 「外国人人口は250万人。わずか5年のうちに少なくとも100万もの人に潜在的な入居差別被害が生じたということになる。入居、就職という生存機会を左右する重大な差別。多くの国で禁止されているが、日本に法律がないどころか、仕方がないと片付けられている」

 ヘイトスピーチの被害はどうか。金さんが着目したのは国籍による差。ヘイトスピーチを「直接見た」は韓国朝鮮籍者は40・0%で、その他の国籍者の17・7%を大きく上回った。「インターネットで見た」「メディアで見聞きした」「家族や知り合いから聞いた」という回答も同様だった。

 被害感情も違いが見られた。直接見たという回答者で「許せないと感じた」のは、韓国朝鮮籍で41・0%に上ったのに対し、その他は17・5%。「日本で生活することに不安や恐怖を感じた」は41・9%に対して25・1%だった。

 「標的にされている韓国朝鮮籍者は情報への感度も感受性も高い。結果、大きな沈黙効果が生じる」。「差別的な記事、書き込みが目に入るのが嫌でインターネットサイトの利用を控えた」という韓国朝鮮籍者は39・2%、「差別を受けるかもしれないのでプロフィールで国籍、民族は明らかにしなかった」は30・6%。その他の国籍者の倍以上の割合を示した。

 「被害を回避するために4割がインターネットの利用そのものを避けさせられている。出自を書けないなど、ネットワーク形成の障害になる状況も見受けられる。ネットを通じた出会いが閉ざされている。ヘイトスピーチは友達まで奪う状況にある。表現の自由を剥奪されている」

共通点



 「なぜ、彼ら彼女らはあんなひどいことを言うのか」「一体、どんな人たちなのか」。取材で被害当事者以外から尋ねられることは少なくない。私は答える。

 「私たちです」

 答えは続いて登壇した、アイヌと沖縄出身者のスピーチにも示されていた。

 東京に住むアイヌ、北川かおりさんは差別の連鎖を指摘した。「在日コリアンがアイヌに成り済ましている、と。妄想だといくら説明してもやめてもらえない。しまいには死滅させてあげなかっただけ日本は素晴らしい、と」。

 那覇市出身、琉球新報記者の新垣毅さんも地続きの問題を痛感する。「在日コリアンを標的にしたヘイトスピーチの嵐が吹き、その延長線上に沖縄へのヘイトがある」。重なるのはそもそもの差別の存在、それも政府がつくり上げた歴史的、構造的な差別だ。「在日米軍専用施設の7割が集中しているという物理的差別に加え、排外主義の標的にされるようになった。基地建設に反対する人たちを国益に反する『反日』とレッテルを貼り、差別の対象にする。物理的、排外主義的な二重の差別が沖縄に降りかかっている」

 政府による公の差別は草の根のヘイトにお墨付きを与え、呼応し合う。13年1月、オスプレイ配備撤回を国に求めて上京した当時那覇市長の翁長雄志知事ほか沖縄の首長、県議らは、その足で銀座をデモ行進した。沿道の日章旗を手にした一団から罵声が飛んだ。「売国奴」「非国民」「日本から出て行け」

 後日会見で翁長氏は言ったという。「こういう人がいるのは知っていたから驚かない。一番驚いたのは、何事もなかったかのように通り過ぎる買い物客、普通の人たちの姿だった」

 昨年10月にはヘリパッド建設反対運動の現場で大阪府警の機動隊員が「触るな、土人」と県民に言い放つ。派遣した松井一郎知事は「ご苦労さま」とねぎらい、安倍晋三内閣は「差別と断定できない」と閣議決定で擁護してみせた。差別の存在を認めれば、基地の偏在という物理的差別まで解消しなければならなくなる。否認の強固な意思が透けて見えた。

 そして今年1月、東京MXテレビの番組「ニュース女子」が基地反対の人々を「テロリスト」と放送するに至る。新垣さんは言う。「無関心、放置が罪深い結果を生む。一人一人が責任を感じることが共生社会をつくる力になる」

 その責任に向き合わずに共になど生きられないという投げ掛けを前に「なぜ、差別をするのか」と問うことにどれほどの意味があるだろう。差別にくむべき事情も正当化され得る理由もない。差別者も突如姿を現した特異な存在ではない。在日コリアンへの差別は戦前の植民地支配から続くものだ。劣った民族だから代わりに統治するという支配を正当化するためにつくりだされた差別はアイヌ、沖縄に共通する。その責任に政府も社会も向き合ったことはない。

 原因はだから、何か理由があるのではないかと首をかしげ、その高みからのまなざしこそが差別を容認し、結果的に加害に加担している私たち自身、そうした一人一人で形作られているこの社会だ。

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