1. ホーム
  2. ニュース
  3. 社会
  4. リオ五輪ルポ・暗さの中に未来の息吹

スラム街「ファベーラ」を歩く
リオ五輪ルポ・暗さの中に未来の息吹

社会 | 神奈川新聞 | 2016年9月13日(火) 09:31

急峻な山地に建設されたファベーラ「サンタマルタ」。尾根伝いにキリスト像を望む =リオデジャネイロ
急峻な山地に建設されたファベーラ「サンタマルタ」。尾根伝いにキリスト像を望む =リオデジャネイロ

 簡素な住居群が山の斜面に張り付くように密集している。ここはファベーラと呼ばれるブラジル・リオデジャネイロのスラム街。市内に約千カ所あり、人口の2割以上が住むとされる貧困地域は麻薬組織に実効支配され、犯罪の温床と恐れられている。だが、祭典の影と見られながらも、人々の息づかいは確かに感じられた。リオ五輪開催期間中、この地に足を向けた。

 南米随一のリゾート地コパカバーナの近郊。地下鉄ボタフォゴ駅から徒歩5分ほどの場所に、目的としたファベーラの一つ、サンタマルタはあった。

 「They Don’t Care About Us」。俺たちのことなんて誰も気に掛けていない-。サンタマルタは、2009年に逝去したキング・オブ・ポップ、米歌手のマイケル・ジャクソンがこの曲のミュージックビデオを撮影した地として知られている。2014年のワールドカップ(W杯)ブラジル大会などを経て治安改善が進み、今は観光地として外部の人間を受け入れている街だ。

 「自由に写真を撮っても大丈夫です。ただ、ちょっと雰囲気の悪いところもあるので、そこでは人は写さないようにしてください」。案内をお願いしたのは野々村真吾さん(38)。リオの中心街で宿泊施設を営む傍ら、こうしたツアーを催行している。

 「五輪で警備が厳重な今が一番安全なのに、危険というイメージが先行してしまっている。宿も予定の半分しか埋まらなかった。2月のカーニバルのときのほうが危険だけど、お客さんはたくさん来る」。野々村さんはそう説明する。



 そもそも、ファベーラの建設は19世紀後半の内戦に端を発する。反乱軍鎮圧のため政府は元黒人奴隷たちを徴兵したが、終戦後、仕事を求めて大都市に流入した彼らに住居を提供することはなかった。このため、都市部近郊の公共の土地に自ら簡素な家を建てたのだという。

 標高300メートルほどの山地にへばりつくようにれんが造りの家々が立ち並ぶ。「下に行くほど暮らしは豊か。ここは仕事を見つけやすいし、交通の便も良いので地価は高い」と野々村さん。斜面を斜めに結ぶエレベーターに乗り、まずは最高所まで上がった。

 頂上からは尾根伝いに観光名所のコルコバードのキリスト像も望めた。交番の隣にあるフットサルコートでは、子どもたちがサッカーボールを追っていた。平和的な光景だが、野々村さんが教えてくれる。

 「ここは以前、ドラッグギャングの拠点があった。W杯や五輪の開催が決まって銃撃戦の末にようやく制圧されたばかり」。やはり危険と隣り合わせなのだろうか。「ファベーラによってはまだ銃撃戦も、ドラッグの拠点もある。近づけないところはたくさんある」

 少し歩くと、野々村さんが声を潜めた。「ここからは注意してください」。若者たちがたばこを吸っている四つ角。その奥の暗がりに目を向ける。「きょうは居ませんでしたけど、ここでドラッグをやっていることがある。まだどこかにドラッグの拠点があるのだと思う」。闇はあちこちに点在している。



 とはいえ、暗さばかりではない。犬や鶏が放し飼いされている細い路地を下りると、ガラスのない窓から女性が笑顔を向け、崩れかけのれんがの修繕にいそしむ男性は手を止めて「ボアタルジ」(こんにちは)と気さくに親指を立てる。

 警戒心が解かれてきたころ、10歳前後の少年が声を掛けてきた。

 「マイケルのところに行くんだろ? 案内するから金をくれ」。マイケル・ジャクソンの銅像も建てられているサンタマルタ。あざとさはあるものの、悪事ではなく観光に生きるすべを求めている少年に、どこか安堵(あんど)感を覚える。

 再び出発点近くまで下りると、野々村さんが説明してくれたように光景は変わってきた。居間には大型テレビが鎮座し、行き交う人々はスマートフォンをいじったり、穏やかに掛け合いを楽しんだりしている。子どもたちはアニメのキャラクターグッズを抱え、携帯型のモバイルゲームに興じている。

 広場に近づくとにぎやかな拍子が聞こえてきた。サンバ隊の練習だ。「サンバチームの拠点の多くがファベーラにある。多いところだと千人くらいのチームもある」と野々村さん。生活とともに育まれてきた文化があった。

 リオ五輪では柔道女子57キロ級でファベーラ出身のラファエラ・シルバ選手(24)が制している。非政府組織(NGO)が運営する柔道教室に通い、技を磨き、そして、開催国に大会第1号となる金メダルをもたらした柔道家は、子どもたちの憧れともなっている。

 ラテンを象徴する原色でところどころ彩られた街は簡素ながらも鮮やかだ。つきまとう暗いイメージを払しょくし、一歩ずつ未来へと向かう生のエネルギーにも満ちている。

 ◆ファベーラ ブラジル都市部のスラム街。貧困層が多い東北部などから経済成長を見込んで人口流入が続き、2010年国勢調査では国民の約6%に当たる約1140万人が居住、00年の調査時点からほぼ倍増した。


内部は薄暗い路地が縫うように走る
内部は薄暗い路地が縫うように走る

リオ五輪に関するその他のニュース

社会に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

アクセスランキング