「集積」から「イノベーション(技術革新)拠点」へ-。最先端の研究機関の立地が進む川崎市臨海部の殿町国際戦略拠点キングスカイフロント(川崎区殿町3丁目)は、2017年度中にいよいよ街が出来上がる。05年のいすゞ自動車川崎工場の閉鎖以降、市が国や県と連携して進めてきたライフサイエンス分野の拠点形成は新たな段階に入る。
顔の見える関係
羽田空港と多摩川を挟んだ対岸の約40ヘクタール。各区画で研究棟の建設が進む。都市再生機構(UR)の土地は今年1月にほぼ全て売却先が決まり、50機関(入居事業者含む)の進出が固まった。
「多種多様な人が交じるほどアイデアが生まれる。いかに有機的なつながりを強めていけるかが課題だ」
3月28日、殿町の施設で地区内の関係者約150人が参加したパネル討論会。ジョンソン・エンド・ジョンソンの日色保社長、ナノ医療イノベーションセンターの片岡一則センター長、CYBERDYNE(サイバーダイン)の山海嘉之CEO、福田紀彦市長らが登壇し、世界的な医療技術革新拠点を目指す上で地区内の「顔の見える関係」の重要性を口々に強調した。
「キングスカイフロント人」なる造語も飛び交い、地区概成を前に仲間意識を高める場となった。
住民が魂入れる
主催したのは昨年12月に有志で立ち上げたキングスカイフロント交流会。代表を務める実験動物中央研究所(実中研)の野村龍太理事長は「立地機関が増える中で信頼関係をつくろうと設立した。ヨコの連携を通じ、それぞれの仕事を発展させていくこともできると思う」と説明する。
新薬や医学研究に欠かせない実験動物の開発を手掛ける実中研は11年に地区第1号として進出、この地の発展を見てきた。「行政がまちづくりを進めてきたが、街に魂を入れていくのは“住民”の仕事」と意気込む。
殿町には再生医療や創薬、ナノテク、ロボットなどの分野の機関が立地し、基礎研究から企業の開発拠点までそろう予定だ。研究成果の実用化に際し、有効性や安全性を評価する「レギュラトリーサイエンス」を担う国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)も来月に竣工(しゅんこう)する。研究者らも「一気通貫で物事が進む」(片岡センター長)と期待する。
海外との協調も
進出機関ではすでに連携が生まれている。
実中研は国衛研と再生医療の世界標準の試験法を共同研究。慶応大学医学部はサイバーダインが開発した「ロボットスーツHAL」と再生医療を組み合わせた脊髄損傷の治療法の開発に取り組む。ビッグデータによる介護予防研究や創薬支援システムの開発なども予定されている。
政府も二つの特区に指定し、発展を後押し。「関係省庁の次官や局長が交代するたびに視察に訪れる」(野村理事長)のは、国が成長戦略拠点と位置づけているからだ。東京五輪の20年度には川に橋が架かり、羽田空港と直結する。
野村理事長は進出当時を振り返りながら強調する。「6年前は何もなく、風が吹きさらしていた。今はステータスが違う。技術を生み出し、それを世界と一緒に使っていく。世界と協調し、競争するのがこのエリア。住民同士、力を合わせていきたい」