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時代の正体〈474〉木村草太さんが語る安倍政治(下) 「自衛隊」侮辱に浅慮

社会 | 神奈川新聞 | 2017年5月26日(金) 11:52

きむら・そうた 憲法学者。首都大学東京教授。2003年東京大法学部卒、同助手。16年から現職。著書に「憲法という希望」(講談社現代新書)、「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)、「集団的自衛権はなぜ違憲なのか」(晶文社)ほか。横浜市出身。
きむら・そうた 憲法学者。首都大学東京教授。2003年東京大法学部卒、同助手。16年から現職。著書に「憲法という希望」(講談社現代新書)、「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)、「集団的自衛権はなぜ違憲なのか」(晶文社)ほか。横浜市出身。

【時代の正体取材班=田崎 基】5月3日の憲法記念日。日本国憲法が施行されて70年という節目の日に、安倍晋三首相は保守系組織の集会にビデオメッセージを寄せ、また読売新聞のインタビューに応じる形で自身の「改憲提案」を披歴した。憲法学者で首都大学東京の木村草太教授はそこに通底する「乱暴な為政者の姿」を見る。


 自衛隊について憲法に明記しようという議論は特に目新しいものではない。ただ、2014年7月以降、集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、それに伴い15年9月に安全保障関連法が成立したという要素が加わったことで、憲法9条と自衛隊を巡る議論はかなり複雑化した。

 個別的自衛権の範囲を維持したまま憲法に自衛隊を書き込むというのであれば分かりやすかった。だが、いまになって自衛隊を書き込むとなると、集団的自衛権についてどう扱うのかが難問となる。

対話能力の欠如


 明記の仕方としては二つの方法があり得るが、いずれも与党にとっては都合が悪い。

 一つ目は、自衛隊の任務について個別的自衛権に限定した形で明文化する方法だ。だがこれでは現行の安保法制が明確に違憲となるため、与党としては採用し難い。


憲法学者の木村草太さん
憲法学者の木村草太さん

 では、集団的自衛権をも含む、と明記する場合はどうだろうか。この改憲提案はまず、否決された場合が大問題となる。安保法制に対し国民が「NO」を突き付けた形となってしまうからだ。

 もちろんこの案で可決できれば安保法制は明確に合憲であるという根拠が与えられることになる。だがそう簡単にはいかないだろう。いまでも安保法制への反対は根強い。国民投票は当然、「安保法制の合憲性を問う」形でなされることとなる。再び反対運動は盛り上がる可能性が高い。

 重要な点は、安保法制を成立させたときとは異なり、話が国会の中だけでは完結しないということだ。したがって国民投票で決着することは、与党としては大博打(ばくち)を打つこととなってしまう。

 いずれにしても与党にとってはよろしくない出来事になってしまう。

 なぜ安倍首相は唐突に、練られてもいない考えを披歴したのか。よく分からないが、詰まるところ自身の意見を国民にきちんと伝える能力が低いのだろう。

国民に選択肢を


 では安倍首相はどのように憲法9条改正を訴えればよかったのだろうか。私が相談されていればこう答えた。

 いま9条改正について世論には大きく分けて三つの見解がある。

 一つは「護憲」。二つ目が「自衛隊を明記し、個別的自衛権に限定する」。三つ目が「自衛隊を明記し、集団的自衛権も認める」。

 改憲提案の際には、国民がこの見解を適切に受け止められるようにする必要がある。

 例えばこうだ。

 〈自衛隊+個別的自衛権明記〉
 〈自衛隊に集団的自衛権を認め、その行使の範囲や手続きを明記〉

 この二つを別々の改憲案として国民投票で提案する。

 国民はこの二つの項目にそれぞれ○か×を付ける。つまり、集団的自衛権は認めたくないが、個別的自衛権の範囲は認める改憲に賛成の人は「○×」。集団的自衛権も認める人は「○○」と書けばいい。もちろん改憲反対、護憲の人は「××」となる。

 安保法制については疑義があるため、いったん停止する法律を別途作り、国民投票の結果を受け、認められれば再び始動させる、という説明をすれば、国民の側も「なるほど」と納得するのではないか。


憲法学者の木村草太さん
憲法学者の木村草太さん

 仮に、3日に安倍首相がこうした丁寧な提案をしていたらどうだろうか。どのような立場の人も意見表明しようと思えるのではないか。あるいは多くの国民が自分の考えを自問したかもしれない。

 首相の本来の狙いはここにあったはずだ。護憲派もメディアも野党も、この改憲論議になら乗ってきた可能性があった。しかし安倍首相はいきなり「自衛隊を明記します」と言い出したがために反発や警戒、そして不信を生んでしまった。

 また指摘しておきたいのは、安倍首相は一連の発言で自衛隊に対して「違憲」の疑いをかけたという事実だ。本来であれば、首相の地位にあり、かつ自衛隊の最高指揮官が、自衛隊に違憲の疑いを持っているという事実は、首相として不適格であると判断されてもおかしくない。

 また国会の場で、そうした疑いを持っているのか、という質問をされれば、答えるべきだろう。首相としての資質を判断するために国会が知っておかなければならない内容だからだ。

想像以上に危険


 「自衛隊」の任務を示さずに組織名だけ文言として書き込むというのは、どういうことなのだろうか。

 例えて言うなら、遠足のしおりに、「前回酒を持ってきて大騒ぎした人がいるので、今回は飲み物を持ってくることを禁じます」と書いてあるとする。一方で同時に「熱中症を防ぐために適切に水分を補給しましょう」とも書いてあるとする。すると禁止された「飲み物」には、水分補給のために必要最小限度の水は含まれない、これは最低限度の水は持ってきていい、と解釈することになる。

 「飲み物禁止」が戦力保持を禁じた9条1項と2項、「適切な水分補給」が国民の生命・自由を国政の上で最大限尊重すべしとする13条、そして必要最小限度の水分が、9条2項で禁止された「戦力」には自衛のための必要最小限度の実力は含まれないとする自衛隊という解釈だ。

 こうした中で「自衛隊を設置してよい」という文言を書き込むというのは、いきなり「水筒は持ってきていい」と書くようなもの。中身には言及しない。すると、これまで通り「水だけ」という解釈もできるし、あるいは「ジュースを入れてもいい」「いや、ちょっとなら酒もいい」「ひょっとしたらウオッカでもいい」という余地を生む。

 これは乱暴な提案であって、想像以上に危険な改憲と言えよう。

 現時点では、安保法制や集団的自衛権と絡めた形で自衛隊の違憲性が議論されていない。この論点はかなり複雑であって、安倍首相改憲提案を20年までに施行するとなると、相当乱暴なやり方となる。

 「自衛隊」を明記するという改憲提案が国民投票で否決される可能性についてきちんと考えておく必要がある。安倍首相による改憲提案直後の世論調査でも賛否は割れていて、否決の可能性は決して低くない。

 さらにこれまでの傾向からして、

 
 

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