「ゲイがいるとエイズがうつるよね」。同僚たちが横で、悪びれずに言う。配属2日目には、上司に「見た目がまじめすぎる。風俗に行け」と促された。
男性同性愛者の樋口康さん(41)=横浜市青葉区=は、差別的な言動が飛び交う職場に13年間、身を置いた。
新卒で大手広告代理店に就職したのは、20年ほど前。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)らの顧客向けの市場に触れ、「性的少数者の地位向上に貢献したい」との夢に燃えていたという。
だが、同性愛者である自身のアイデンティティーをひた隠しにするストレス、そして激務が心をむしばんでいった。うつ病の診断を受けて休職したのが36歳の頃だった。
半年後に復職した部署でも「あの人、ゲイっぽいよね」「きもーい」といった同性愛者をやゆする会話が繰り返された。「ここで自分がゲイであることを公表したら、どうなっちゃうんだろう」。絶望の淵に落とされた気がした。約2年後、会社を去った。
職 場
性的指向や性自認などのセクシュアリティーを気にせず働くことは、多くの性的少数者にとって高い壁となっている。
性的少数者が働きやすい職場づくりを目指すNPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市)と国際基督教大ジェンダー研究センター(東京都)が2016年、LGBTら当事者1645人と非当事者614人に行った職場環境アンケートでは、当事者の約6割が「職場で差別的言動が多い」と答えた。具体的には「同性とルームシェアをしていたと話したら『気持ち悪い』と言われた」「『普通じゃない人はなかなか正社員にはできない』と上司から言われた」など。カミングアウトをしたら採用を撤回されたり、「あいつゲイっぽいよな」と同僚が笑いのネタにされたりするケースもあった。