他にはない神奈川のニュースを!神奈川新聞 カナロコ

  1. ホーム
  2. ニュース
  3. 社会
  4. 〈時代の正体〉デマという差別、常習的かつ確信的に 差別扇動者の話法(上)

〈時代の正体〉デマという差別、常習的かつ確信的に 差別扇動者の話法(上)

社会 | 神奈川新聞 | 2017年5月17日(水) 21:30

拉致被害者の奪還を掲げたデモの先頭を歩く瀬戸氏(中央)=4月23日、東京都新宿区
拉致被害者の奪還を掲げたデモの先頭を歩く瀬戸氏(中央)=4月23日、東京都新宿区

【時代の正体取材班=石橋 学】特定の民族をおとしめ、差別をあおるヘイトスピーチを巡り、川崎市では差別を目的にした公的施設の利用を制限するガイドラインや条例づくりが始まっている。規制に向けた動きが進む中、差別扇動を主導してきた確信的差別主義者は生き残りに躍起だ。代表的な差別扇動者である、極右政治団体「日本第一党」の瀬戸弘幸最高顧問と桜井誠党首の話法から、課題を考える。

 インターネット上に流布するうその情報、「フェイクニュース」の作られ方を目の当たりにしたのは講演会前日のことだった。瀬戸氏が「左翼&在日が駅前、道路で妨害行動へ」というタイトルでブログに載せた記事に、私と弁護士の会話が記述されていた。

 瀬戸氏は3月25日、川崎市中原区で「ヘイトスピーチと言論の自由」と題する講演会を予定していた。ヘイトスピーチが行われる可能性が高く、公共施設はそうした人権侵害に手を貸すべきではないとして会場の使用許可の取り消しを求めていた市民団体の動きについて交わした会話だった。

 〈神原弁護士 「明日はどうなっている?」

 石橋学 「駅前と行く街道沿いに配置してあります。」

 もう、妨害する気満々ですね。昨年6月5日の再燃を狙っているのでしょう〉

 会話を偶然聞いた支援者が伝えてきたのだと記されていた。その日、私が東京地裁のエレベーター前で神原元弁護士と立ち話をしたのは確かだ。会話が聞こえる距離に瀬戸氏とつながりがあると思われる人たちがいたのも知っている。

 事実はそこまでだった。私の発言が正反対なものになっていた。

 市民団体を取材していた私が神原弁護士に伝えたのは「駅前でチラシや風船を配り平和的にアピールをする。抗議のカウンターは行わない」だった。カウンターとはヘイトデモ参加者に沿道から抗議の声を上げる活動を指す。そもそも市民団体のメンバーでもない私が「配置してあります」などと言えるはずもない。

 瀬戸氏は昨年6月5日、ヘイトスピーチ常習者が中原区で主催したデモが抗議の市民に取り囲まれ、中止に追い込まれた一件を「言論弾圧」と主張する。差別的言動による人権侵害を防ぐため川崎市が進める条例制定の阻止を「最大の闘争目標」と公言している。

 捏造(ねつぞう)した私の発言を基に瀬戸氏は続けて書いた。

 〈左翼&在日はどうしても今回の講演会を力づくでも潰すつもりですがそうはさせません。ここで彼らの暴力的妨害行動が起きれば、川崎市が左翼&在日と結託して成立させようと企む『ヘイトスピーチ条例』が如何に大きな問題を含むものであるかを全国の皆様にアピールする絶好の機会となります〉

 過去には参院選に出馬、現在は極右政治団体「日本第一党」最高顧問に就き、政治活動を標榜(ひょうぼう)する瀬戸氏の自作自演ぶりに驚く。条例づくりは有識者会議の答申を踏まえたもので「川崎市が左翼&在日と結託して成立させようと企む『ヘイトスピーチ条例』」の一文はもはや妄想のレベルだ。

 福田紀彦市長は幅広い市民の参加による議論が必要との認識を示しており、条例制定を求める市民集会には自民、公明から民主、共産、無所属まで政治的スタンスに関係なく国会議員、県議、市議が「オール川崎」で集った。事実とのあまりの乖離(かいり)は、瀬戸氏の錯誤が意図したものだということでしか説明がつかない。

 私はそこに差別が目的化した差別扇動者の話法を見る。デマを用いてでも敵を仕立て、憎悪をあおり、差別を正当化する-。

うそつき呼ばわりのうそ




 講演会では何が語られたのか。ユーチューブに投稿された動画で確かめる。冒頭、それ自体が差別にほかならない、事実に反したうそつき呼ばわりという人格攻撃から始まった。

 「神奈川新聞が書いたように実害が出ているなら、主催者である私を告訴すればいい。簡単なことだ。(告訴しなかったのだから)彼らの『会場を貸すな』という訴えはまったく正当性がなかった」

 瀬戸氏は差別・排外主義をブログで流布させるだけでなく、各地のヘイトデモ・街宣に参加してきた。「一人残らず出ていくまで真綿で首を絞めてやる」と叫ぶ、民族虐殺まで想起させる「川崎発!日本浄化デモ」にも姿を見せた。確信的に差別を行う人物が、標的とされた在日コリアンの恐怖をかき立てないわけがなかった。

 閉じられた会議室での講演とはいえ、インターネットで公開するとも告知されていた。「日本浄化デモ」に続き、再び人権侵害が引き起こされる恐れに不安を訴え、抑止策を市に求める在日コリアン市民に対して、あろうことか「言論弾圧」「不逞鮮人」といった名指しの攻撃がツイッターで飛び交った。職場には「朝鮮人は朝鮮へ帰れ」という脅迫電話もかかってきた。実害にほかならなかった。

 それを瀬戸氏は、告訴しなかったのだから実害はないという論理的とは到底呼べぬ論法で「うそ」と言い放った。自らの言動が人権侵害を引き起こした責任を棚に上げ、自分たちは言われのない非難を受けている被害者なのだというメッセージを、そうして発信した。うそつき呼ばわりするうそへのためらいのなさ、マイノリティーが二次被害を承知で訴訟を起こす精神的苦痛に思いを致そうとしない居直りもまた、確信的差別主義者のなんたるかをよく表していた。

 重なる光景があった。2016年1月31日、在日コリアン集住地区の川崎区桜本を標的にした「日本浄化デモ」の参加者は拡声器を手に叫んだ。

 「韓国、北朝鮮は敵国だ。世界中に日本の悪口を言いふらしている。敵国人に殺せと言っても差別でも何でもない。ゴキブリ朝鮮人をぶち殺せ。これで構わない」

 元慰安婦はうそつきだ。一緒に被害を訴える在日も、だからうそつきだ。われわれは言いがかりをつけられている。憎悪を向けるのは当然だ。そうして加害と被害を逆転させ、差別をあおる。瀬戸氏は「殺せ」「出て行け」という言葉こそ使っていないが、同じ論法で発するメッセージは変わるところはない。

 1時間半に及んだ講演は終始、虚偽にまみれた。産経新聞が報じたという在日コリアンの強盗事件を挙げ、「ヘイトスピーチ、ヘイトクライム(憎悪犯罪)だと、われわれが悪者のように言われるが、われわれの側がこういう事件を起こしたことは一度もない」。

 「差別をしてはいけないと思う」と語った直後、「差別されていると言いながら利益をむさぼってきた」と、差別の根絶に取り組む人たちをおとしめてみせた。同和指定地区がないにもかかわらず福島県には同和対策室があり、それは研修のためだと言って企業に高額な文献を売りつける同和団体の対策のための部署だと言った。

 私は福島県庁に問い合わせた。「そのような部署は過去にも存在しない」。名指しされた部落解放同盟の中央本部も「われわれがそうした活動をした事実はない。同和団体をかたった事件が過去にあったことは承知しているが、差別をなくそうという運動とは無関係の団体だ」と話した。

差別正当化に「弾圧」強調




 あからさまなヘイトスピーチを口にしなかった瀬戸氏の姿は「不当な差別的言動は許されない」と宣言するヘイトスピーチ解消法の効果をうかがわせた。

 講演の中で瀬戸氏は、川崎でヘイトデモを主催してきた津崎尚道氏の講演会参加を断ったことを明かし、「津崎さんが来るとヘイト集会だとか余計なことを書かれかねない。今回は遠慮してほしいと頼んだ」。会場からの質疑も受け付けなかった。「質問の中にヘイトがあったと書く記者が出てくる可能性があるから」

 市と会館側は講演会を前に「今回ヘイトスピーチが行われた場合、次回以降は申請を保留し、許可不許可の判断は協議して決める」ことを決めていた。

 それでも瀬戸氏は「講演と銘打ち、こういう集会を開くこと自体が大成功」と胸を張ってみせた。やはり、強まる批判と監視の目を敵に見立てるという話法によって、である。

 「左翼と在日勢力がつるんでヘイトスピーチ条例を成立させようとしている動きに対して、必ずわれわれは反撃する」「川崎問題は言論の自由を守る最大の闘いの場であり、ここで歯止めをかける。徹底的にあらがっていく」

 人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」が2009年に京都朝鮮第一初級学校前で「朝鮮人は保健所で処分しろ」「スパイ養成学校」などと叫んだ街宣が、憲法で保障された表現の自由を逸脱した違法な人種差別だと認定されたように、人をおとしめ、傷つける言動が言論の自由として守られるはずがない。批判されるべくして批判されているにもかかわらず、瀬戸氏はナチズムを肯定するという倒錯をもって「差別する自由」を守ろうとしてみせた。

 「ヒトラーとかナチスをすぐ彼らは問題にするが、日本での思想信条の自由は認められている。世界でどんな悪玉に仕立て上げられた人間でも、思想信条を述べたからといって逮捕されたり、けしからんということにはまったくならない。それをあたかも罪であるかのように一方的に責めたてた」

 終了後は参加者がそろって最寄りの武蔵小杉駅に向かい、6駅先の川崎駅で解散、という念の入りよう。「そばに妨害勢力がいる。(挑発に乗らないよう)『オールスルー(完全無視)』で」。仕切り役の芝居がかった物言いは「弾圧」を強調する瀬戸氏に重なった。

 かき立てられた危機意識は排斥感情を生み、具体的な行動を起こさせる。瀬戸氏の講演による扇動効果とその危険性を証明する参加者も現れた。

 この参加者はヘイトスピーチ問題に取り組む民進党の有田芳生氏に危害を加えることをほのめかすツイートを立て続けに投稿した。有田氏は3月22日の参院法務委員会で、瀬戸氏の講演会開催を「過去の言動からヘイトスピーチを行う蓋然(がいぜん)性が高い。差別をなくそうというさまざまな人の努力に真っ正面から挑戦するかのような集会が行われようとしている」と問題視。法務省人権擁護局に「こうした集会には監視の目を強め、あらゆる効果的な啓発活動をしてもらいたい」と対応を要請していた。

 有田氏はヘイトスピーチの事前の可能性を指摘し、規制ではなく啓発による抑止を求めていたにすぎない。なのに、この参加者は「ヘイトスピーチをすると決めつけた上でわれわれに対する言論弾圧を行った」「講演会の当日、ヘイトスピーチはなかった。うそつきだ」と瀬戸氏同様、架空の「弾圧」に敵意をたぎらせ、4月14日には新橋駅前で「有田芳生糾弾統一行動」と称した街宣を主催した。しかも、その街宣は政治家への批判という体を取りながら、そこで繰り広げられたのは北朝鮮情勢を口実にした在日コリアンへの差別感情の発露と排斥の扇動だった。

 「有田芳生は北朝鮮の手先、在日朝鮮勢力の手先、反日政治家だ」「北朝鮮が首都東京にミサイルを飛ばしたら、誰が混乱からわれわれを守るんだ。工作員が暴れたら、誰がわれわれを守るんだ」

 ヘイトスピーチ問題に最も熱心に取り組む政治家を標的にしたこと自体が、川崎市にこだわって行われた講演会と同様、すでにその意図を物語る。

ヘイトスピーチに関するその他のニュース

社会に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

アクセスランキング