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坂本弁護士一家殺害 23年目の慰霊
終わらぬ道(下)「記憶していてほしい」

社会 | 神奈川新聞 | 2016年9月10日(土) 16:10

慰霊に訪れた弁護士らは龍彦ちゃんが発見された場所で手を合わせた=2011年9月11日、長野県大町市
慰霊に訪れた弁護士らは龍彦ちゃんが発見された場所で手を合わせた=2011年9月11日、長野県大町市

 初めてビールを手向けた。2011年8月25日、鎌倉市の円覚寺。坂本堤弁護士の母さちよさん(79)は、流れた時を感じた。「これまでケーキなどを持ってきていたんです。娘に『成人しているんだから、お酒ぐらい飲むわよ』って言われて。龍彦も、生きていれば、立派な大人なんですよね」。記憶の中にいる小さな孫の、23回目の誕生日だった。

 初めての男の子の孫だった。さちよさんは、息子の妻の都子さんに「子どもを育てて社会におくるのが母親の仕事。自分の手で育てなさい」と話していた。「しゅうとめとして生意気なことを言いましたが『毎日、子どもと一緒に生活できてよかった』と、今は勝手ながら思っています。こんなに短い人生だったのですから」

 1歳と2カ月。「都子さんは『せめて龍彦だけは殺さないで』という言葉を残していたと聞きました。それを、いとも簡単に…。まだ『ママ』も言えなかった小さな子を」

 1995年9月、息子一家は新潟、富山、長野の3県で、それぞれが遠くかけ離れた場所で発見された。さちよさんは、家族一緒に入ることのできる骨つぼを探し、両親が龍彦ちゃんを抱っこするよう納めた。「親としては、せめて、それぐらいのことしかしてやれなかった」。16年間、月命日と3人の誕生日の墓参りは、欠かしたことがない。

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 記憶の中の龍彦ちゃんは、1歳の姿でいる。同じ年に生まれたもう一人の孫は、社会人として働いている。流れていく歳月。近年は、事件のことが報じられることがほとんどなくなった。さちよさんは言う。「どこかでだれかに、事件を記憶しておいてほしい」

 オウム真理教をめぐる事件は、松本智津夫死刑囚(56)=教祖名麻原彰晃=ら11人の死刑が確定し、一連の刑事裁判は年内にも終結する見通しだ。

 さちよさんが、わずかに語気を強めた。「サリン事件の後遺症に苦しんでいる方、介護を続けている家族の方は、たくさんいらっしゃいます。事件はまだ何も終わっていないんです」。オウムによる犯罪の被害者や遺族に国が給付金を支払う「被害者救済法」の申請者は、申請が締め切られた2010年12月の時点で、計6583人に上った。

 「同じような事件が起きるようなことがあってはなりませんが、今も凶悪な事件は続いています」。さちよさんはそう続けた。

 岡田尚弁護士(66)は言う。「オウムのような事件が再び繰り返される怖さは、いつの時代もある。事件を風化させたくないというさちよさんの言葉は、そんな気持ちの表れでもあると思うのです」

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 坂本堤さんが弁護士になった時、母さちよさんに言った言葉がある。「僕は、弱い人のために力になりたいんだ」。息子は笑っていた。「私は、元気で、明るくて、一生懸命仕事をしている堤しか知りません」

 16年間、墓参りの時に雨に降られたことは一度もない。「魂か、霊魂のようなものがあるとするならば、3人が守ってくれているのかもしれません」

 雲の切れ間からのぞいた光が、一家の慰霊碑を照らしていた。

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