
自民党が所属議員に配布した「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を解説した資料。「一般人は対象にならない」「組織犯罪対策に必要です」と強調するが、法文上の規定があいまいで捜査機関の恣意(しい)性を拭えないことを明らかにしてきた。最終回は、「対象犯罪」について。政府は「676の対象犯罪を277に限定した」と理解を求めるが、見えてきたのは、あたかも「限定」したかのように振る舞うまやかし、絞り込みの基準の怪しさだった。
自民党資料にはこうある。
〈かつての「共謀罪」の法案では、当時、615あった懲役・禁錮4年以上の犯罪すべてを対象にしていました〉
政府は「国際組織犯罪防止条約」(TOC条約)への批准には共謀罪が必要だと繰り返している。
同条約では共謀罪の対象犯罪として「4年以上の懲役・禁錮の刑を定める犯罪を対象とする」よう求めている。このときの政府案は600以上を対象としていた。
過去3度廃案になった共謀罪の審議過程では、多くの犯罪が対象になることに懸念の声が上がった。「犯罪の内容に応じて対象犯罪を選ぶべきではないか」という指摘に対し、政府は2005年、こう閣議決定している。「犯罪の内容に応じて選ぶことは条約上できない」
だが今月7日、政府は当時の答弁と、現在の277に絞り込んだ判断との食い違いを指摘されたところ、一転して「国際組織犯罪防止条約の規定により許容される」とする答弁書を閣議決定した。
政府答弁を変更したわけではない、とも説明している。
この点について自民党資料にはこうある。
〈今般の法律案は、TOC条約(国際組織犯罪防止条約)において、各国の法律で対象犯罪を「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪」とすることができる、と規定していることに着目しました〉
つまり、条約を締結する主権国家として政策的な考慮から対象犯罪を絞り込める、という解釈だ。05年の閣議決定とは明らかに異なる判断をしている。
そして政府は今回、277の犯罪を対象として挙げた。一体どういう基準で選ばれたのか-。
キノコ採り「テロ」?
「数え方に一定のルールはない」
4月17日午前、衆院決算行政監視委員会。277の理由について問われ、金田勝年法相はこう答えた。
「犯罪の主体、客体、行為の態様、犯罪が成立し得る状況、現実の犯罪情勢といったものに照らし、組織的犯罪集団が実行を計画することが現実的に想定されるか否かという基準によりましてテロ等準備罪の対象犯罪を選択した。その結果が277ということ」
この日の審議では、数々の不条理が浮かび上がった。
例えば、対象犯罪の中に「森林法198条(保安林の区域内における森林窃盗、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)」がある。
民進党の山尾志桜里議員が、テロ対策と関係ない法律がたくさん含まれている、と指摘した上で追及した。
「組織犯罪、テロ対策の資金源になるような犯罪を入れたというが保安林でキノコを採ることもテロの資金源か」
これに対し金田法相はこう答えた。
「組織的犯罪集団が組織の維持運営に必要な資金を得るために計画することが現実的に想定されることから、対象犯罪とした」「立木、竹、キノコといった森林から生育、発生する一切のものが含まれる」
国際的なテロ犯罪を防止するために、山でキノコを盗む相談をすることも取り締まる-。
「一般の方々の認識とは遠くかけ離れていないか」。山尾議員は現実味に欠ける想定に疑問を投げ掛けた。
さらに、「ルールはない」という数え方にも疑いの目が向けられる。
例えば、衆院事務局がまとめた資料では刑法の「電汽車往来危険罪」と「艦船往来危険罪」は別の犯罪としてカウントしているが、政府の277では「往来危険」として一つに数えている。
児童ポルノ禁止法でも「提供」「製造」「外国輸入」を三つと数えているものについて、「児童ポルノ提供等」として一つと計算している。
山尾議員は、数え方によって対象犯罪は316に上ると指摘する。