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沖縄2016夏
時代の正体〈390〉高江で生きる(4)「大切な命、理由ない」

社会 | 神奈川新聞 | 2016年9月9日(金) 14:23

鶏に手作りのえさをやる儀保さん=8月19日、沖縄県大宜味村の「クファチブル農場」
鶏に手作りのえさをやる儀保さん=8月19日、沖縄県大宜味村の「クファチブル農場」

 庭に足を踏み入れると、パパイアの甘い香りが広がった。頭の上にはバナナの実。写真を撮っていたら、有機農家の儀保(ぎぼ)昇さん(61)が教えてくれた。

 「本土の人、パパイアは果物というイメージがあるでしょう? 沖縄では野菜としても食べます。豚肉と煮たり、粗く割いてかき揚げにしたり。おいしいですよ」

 沖縄県北部の大宜味村。儀保さんは20年ほど前からこの場所で「クファチブル農場」を営む。「クファチブルというのは、沖縄の言葉で『固い頭』という意味です。頑固? 女房にはいつもそう言われています」。照れたように笑う。


畑になるパパイア
畑になるパパイア

 儀保さんと初めて会ったのは8月19日。大宜味村の隣、東村高江では、米軍ヘリパッド建設に反対する抗議集会が開かれていた。メインゲート前で座り込む市民たち。その中に儀保さんはいた。話を聞かせてくださいと声を掛けると、うちの畑へ来ませんか、と誘ってくれたのだ。

今週の野菜


 かつては沖縄県の職員だった。「一生、公務員でいるのもつまらないな、と。37歳で辞めました。女房が賛成してくれたので」

 高校で土木建築を学び、県職員時代は機械技師として現場に出た。その経験もあって自分の手で農業を、との思いがずっと頭の中にあったという。山を少しずつ切り崩し、畑を耕し、念願の農場を作った。


季節と土地の特性を生かした野菜作りが自慢
季節と土地の特性を生かした野菜作りが自慢

 農薬、化学肥料、除草剤を一切、使わない。季節と土地の特性を生かした野菜を作り、契約する個人などに販売する。沖縄県北部は農業に最適だ。この大宜味村をはじめ、ハンセン病患者の療養所「沖縄愛楽園」がある屋我地(やがじ)島など、周囲には豊かな自然があふれている。

 儀保さんは配達の時、「今週の野菜」と題する便りを同封する。「何を書いてもいいんです。好きなことを書きます」。最新の便りを見せてもらった。A4判の紙1枚に、パソコンで打った文字がびっしりだ。


「今週の野菜」には、畑で採れたゴーヤーも加わった
「今週の野菜」には、畑で採れたゴーヤーも加わった

 2016年8月19日便
今週の野菜 ゴーヤー ニラ ウンチェー シカクマメ オクラ モーウイ キュウリ パパヤ 甘トウ ピーマン ルビーローゼル ナス ツラムラサキ ウンナンヒャクヤク サトイモ タイナス 青シソ モロヘイヤ グァバ

 東村高江、国頭村安波(高江とばかり言われますが実はこれから建設予定の4カ所は国頭村です。)の米軍北部訓練場にオスプレイパッドの建設が強行開始されてもう一ヶ月が過ぎました。7月10日の参議院選挙で反基地の伊波洋一が大勝したその翌日早朝からの資材搬入という本当に信じられない強行です。日本政府にとって沖縄の民意など、都合のいい時は利用し都合の悪い時は無視する程度のものなどと言うことを今更ながら思い知らされたこの間の状況でした。

 儀保さんが突然、口調を変えた。

 「悔しいです」



米軍ヘリパッド建設に反対し、9年間、座り込みの抗議活動を続ける儀保さん
米軍ヘリパッド建設に反対し、9年間、座り込みの抗議活動を続ける儀保さん

 

いつも同じ手口


 話は7月10日にさかのぼる。

 参院選の結果を、儀保さんは自宅のラジオで聞いていた。午後8時。開票と同時に、無所属新人で元宜野湾市長の伊波洋一氏(64)の「当選確実」の一報が流れた。伊波氏は辺野古新基地建設に反対し、米海兵隊新型輸送機オスプレイの配備撤回も訴えていた。沖縄選挙区の対決相手は、自民党現職で沖縄担当相(当時)の島尻安伊子氏(51)。票差10万票以上の圧勝だった。

 「当確」の瞬間、儀保さんは思わず、ガッツポーズをしたという。「やったぞ!」の声も出た。

 「高江のヘリパッド建設も止まるかもしれない、と。その晩は反対運動してきた仲間と『近いうちにヤギ料理で乾杯だ』と話し、女房とビールで乾杯して寝てしまいました」


ヤギの夫婦も「クファチブル農場」に暮らしている。
ヤギの夫婦も「クファチブル農場」に暮らしている。

 異変は翌11日だった。

 「畑に出ていて昼すぎまで何も知りませんでした。自分は携帯電話を持っていない。家の電話に仲間からかかってきて」

 何が起きたのか。地元紙「琉球新報」は午前10時1分、オンラインニュースでいち早く報じている。

 〈沖縄防衛局は11日午前6時ごろ、米軍北部訓練場の一部返還に伴う東村高江へのヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)移設工事に向け工事関連車両をメーンゲートから入れるなど、工事に向けた準備作業を始めた。参院選で名護市辺野古への新基地建設や高江のヘリパッド建設に反対する伊波洋一さんが大勝した翌日の作業に、建設に反対する住民らは反発を強めている〉

 「沖縄の民意など関係ないと言わんばかりだ」

 今も怒りは消えない。

 振り返ると、いつも「手口は同じ」だった。高江の住民は10年前の2006年2月、ヘリパッド反対を住民総会で決議している。関係機関に出向き、計画の見直しも要請した。ところが07年7月、沖縄防衛局は工事に着手。14年までにヘリパッドは2カ所完成し、いま、儀保さんらの頭上ではオスプレイが飛ぶ。


約500人が集まった抗議集会でマイクを握る儀保さん=8月19日、沖縄県東村高江の米軍北部訓練場メインゲート前
約500人が集まった抗議集会でマイクを握る儀保さん=8月19日、沖縄県東村高江の米軍北部訓練場メインゲート前

24時間の抗議活動



 儀保さんは高江に行くと、ヘリパッド反対の集会で時々、マイクを握る。8月19日の朝もそうだった。農作業を終えて駆け付け、住民ら約500人を前に拡声器を通じて声を響かせた。

 「住民の会はとっても小さな組織です。普通の人たちが集まっているだけです。やり方も分からない。この9年間の(高江での)運動、その前から続いている辺野古の軍事基地建設の反対運動。沖縄に住んでいるわれわれは基地問題から逃れることはできません。私は百姓です。『畑はいつやるんだ』と言われます。ですが、政府には負けないように、絶対に諦めずに頑張ろうと思います」

 この9年間、東村高江周辺の住民らは米軍北部訓練場のゲート前でずっと抗議活動を続けている。座り込みは毎日、交代しながらの24時間。それでも工事は止まらない。


鶏のえさも手作り。パパイア、パイナップルの皮、カキの貝殻などを細かくして、混ぜ合わせる。
鶏のえさも手作り。パパイア、パイナップルの皮、カキの貝殻などを細かくして、混ぜ合わせる。

 ゲート前の抗議集会から戻ると、儀保さんはすぐに鶏のえさ作りに取り掛かった。既製品は使わない。パパイア、パイナップルの皮、カキの貝殻、穀物などを混ぜて作る。終わると、今度は畑に向かった。

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