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~関東大震災90年~ 猛火の中で(6)
未曽有に学ぶ〈13〉大都市◆出火リスク、なお高く

社会 | 神奈川新聞 | 2013年11月3日(日) 23:10

南吉田第二尋常小の作文や被災状況を説明する嶋田さん=9月28日
南吉田第二尋常小の作文や被災状況を説明する嶋田さん=9月28日

 「地震の数日の後には、広々とした焼け野原となってしまいました。僕はこの後どうして生活していくのかと思うと、悲しくてたまらない。米はなく、着物はなく、金はなく、死にたくもない」

 案内役のNPO法人横浜シティガイド協会副会長の嶋田昌子(73)が横浜市立南吉田小学校(南区高根町)の前で立ち止まり、「この学校に通っていた小学生が書いた作文です」と読み上げた。

 1923年9月1日の関東大震災で目の前に広がった惨状と、行く末への不安をつづったのは、南吉田小の前身、南吉田第二尋常小学校に通っていた6年の男児。嶋田が解説する。「関東大震災当時、南吉田小は第一、第二、第三とあり、この辺りは人口が急増していた。商館や銀行、領事館などがある関内と違って、人々が身を寄せ合って暮らしている地域だった」

 90年の節目に「関東大震災を歩く」と銘打った9月28日の散策会。震災時に火災旋風が次々と発生した海沿いから2キロほど離れた南区の一帯を巡ったのは、被害や教訓が語られることの多い横浜公園や横浜正金銀行などがある関内とは異なる被災の姿を知らしめるためだった。

 南吉田第二尋常小の児童による作文を分析した横浜市史資料室調査研究員の松本洋幸(42)は言う。「この学校も全焼し、教職員1人、児童50人が亡くなった」。猛火はさらに内陸にまで及んだが、近くの小高い丘へ逃げた少年少女たちの目に映ったのは、焼き尽くされた家々だけではなかった。

 〈石油倉庫がはねた音はたいほうのやうな音がした〉〈空は火の空のやうになりました〉

 火柱を立てて激しく燃えたのは、中村町にあった県の揮発物貯蔵庫。周囲からの飛び火などが原因で大火災となった。
 横浜市震災誌がその火勢の激しさを伝える。

 〈揮発物貯蔵庫の燃え盛る光景は、凄絶を極めた。無数の油槽は大音響と共に爆発し、火になった揮発油は、中村川に流れたので、川中は一面火となり、橋を焼き、舟を焼き、殊に対岸第三南吉田小学校校庭の集団避難民を焼死せしめた〉

 火は容易に収まらず、1週間以上燃え続けた。
 密集市街地を襲った危険物火災。横浜では石油会社や石炭貯蔵場からも出火、場所によっては40~50日間も燃え続けたと伝えられている。
 横須賀市でも、軍港内で8万トンを貯蔵する重油タンクが損壊。流出した油が海面に広がり、文字通り火の海となった。軍艦は黒煙に覆われながら港外への避難を余儀なくされた。このタンク火災は16日間も続き、自然鎮火を待つ以外に手はなかった。

 その光景は震災体験者の記憶に色濃く残っていた。半世紀以上がすぎた80年代に横須賀市がまとめた「古老が語る ふるさとの歴史」に描写されている。

 〈特に忘れられないのは、重油火災です。箱崎にあった海軍の重油タンクからもれた油が、海上で何日も燃え続けました。真っ黒い煙が空いっぱいに覆い、昼間だというのに太陽が見えない状態が長く続きました〉
 〈箱崎の重油タンクも焼け、黒煙が天をおおって三日ぐらいは太陽が赤く月のように見えました〉

 そしていま、大都市に大火のリスクはないのか。
 9月19日、横浜市神奈川区の市民防災センター。自ら考案した減災ゲームの体験会で「防災を考える会・磯子」代表の片山晋(74)が不安を口にした。

 「建物の耐震性や耐火性は高まっているが、東京湾岸には石油などのタンクが5千基もある。人口が増え、高層ビルも多くなった。関東大震災のときと比べ、良い条件はあるが、悪い条件もいっぱいある」

 名古屋大准教授の廣井悠(34)は首都圏への影響が懸念される巨大地震を見据えて言う。「東京湾沿岸が広く炎上する事態にはならないだろうが、東日本大震災でタンクが流されて火災が起きた気仙沼(宮城県)のようなことは一部で起こり得る」

 直下地震を引き金とした市街地での同時多発火災の恐ろしさを見せつけた95年の阪神大震災の出火件数は285件。津波被害の印象が強い東日本大震災では、しかし阪神を超える330件もの火災が起き、このうち35件が東京都内だった。

 「人口が多ければそれだけ火気も増え、出火件数が関東大震災を上回る可能性はある。初期消火などの対策は急務」と指摘する廣井は危惧を抱く。関東大震災での出火件数は旧東京市で134件、横浜市で289件に上った。「津波から逃げるには高台を目指せばよいが、火災はどこで発生するか、どう燃え広がるか分からない。その中で初期消火に見切りをつけ、安全な場所へ避難するのは非常に難しい。だから都市火災は恐ろしい」=敬称略


横浜の焼失範囲などを示した震災被害図(横浜市史資料室提供)
横浜の焼失範囲などを示した震災被害図(横浜市史資料室提供)

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