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~関東大震災90年~ 猛火の中で(5)
未曽有に学ぶ〈12〉初期消火◆「公助」補う住民の力

社会 | 神奈川新聞 | 2013年11月3日(日) 10:58

路地での放水訓練でホースを延ばす西戸部町3丁目の住民ら=10月27日
路地での放水訓練でホースを延ばす西戸部町3丁目の住民ら=10月27日

 「火事だーっ」。向かい合う住宅の玄関先をかすめるように、勢いよく水が放たれた。手元に伝わる衝撃と圧力に驚きながら、住民は交代でホースの持ち方や周囲との連携を確かめていく。

 10月27日午前、横浜市西区西戸部町3丁目。地中にある消火栓の扱いを学ぶ訓練が行われたのは、学校のグラウンドや公園ではない。木造住宅密集地(木密)に延びる、幅2メートルほどの細い路地だ。

 「この辺りの道路はものすごく狭い。ひとたび火事になれば、一瞬にして燃え広がってしまう」。そう話すのは、訓練を発案した西戸部町3丁目自治会の会長寺島知昭(85)。強い危機感は、この地域を受け持つ西消防署境之谷消防出張所の所長鈴木忠明(54)も共有している。

 隣接自治会も協力した訓練の参加住民に、鈴木はこう呼び掛けた。「火災が起きたときは、できるだけ早く、できるだけ多くの人に集まっていただき、消火に取り組んでいただきたい」

 「無理のない範囲」を前提としながら、初期消火の実践を促したのには理由がある。

 焼失棟数8013棟、火災による死者158人、負傷者233人-。
 東日本大震災を踏まえ、昨年10月に公表された横浜市の地震被害想定で見込まれた西区の影響だ。1923年の関東大震災とほぼ同じ場所で起きた1703年の元禄関東地震並みの巨大地震が再来すれば、大半が震度6強となり、一部では震度7が予想された。

 最悪の場合、区内の出火件数は44件に上るとの試算に、西消防署副署長の小出健(53)は率直に認める。「想定が現実になれば、われわれの力ではとても太刀打ちできない」

 運用できる消防隊は最大7隊、消防団の可搬式ポンプ14台を加えても21の部隊にとどまる。「仮に1現場に1隊ずつ出動しても、出火場所の半分にしか対応できない。夜間や土日であれば、要員はさらに厳しい」と言う。

 そして火元は、マンションが1軒しかない西戸部町3丁目のような木密に集中する恐れが大きい。そうした地域は高齢化が進み、1人住まいが多い。

 いち早く消し止め、延焼を防ぐ。消防が担うべき役割は重いが、大小の消防車が区内の路地に入れるかを実際に試した結果、進入できず活動が難しい場所は26自治会の62カ所にも上った。

 現実味を帯びる「公助の限界」。だからいま、「共助の充実」に活路を求め、消火作業や安全確保のノウハウを地域に還元する試みに力を入れる。

 今年8月には区と協力し、これらの地域住民を対象に消火栓を使った放水の手順を手ほどきした。モデル地区に指定した西戸部町3丁目へは、口径が細く軽量なホースがセットされた可搬式の「スタンドパイプ式初期消火用具」を1台貸与。女性でも消火に取り組みやすい環境を整えている。

 呼応するように地域も意識を高める。
 「バケツリレーは現実には難しい。消火栓を扱える人を増やすしかない」と自治会副会長の古家徹(63)。10月の訓練でホースを握った小峯満里子(75)は「体験しておけば、いつか来るそのときにきっと役立つ」と、スタンドパイプの扱いやすさを実感した。

 「倒壊の影響は自分の家にとどまるが、火災は燃え広がり、周囲にも被害を及ぼす。この地域にとって、火災は本当に怖い」
 もう一人の副会長、本戸信也(66)が懸念するような状況は90年前の関東大震災の際、西戸部町の一帯でも現実となっていた。
 当時の緊迫した状況を横浜市震災誌が記す。

 〈逃げ後れた者は、忽(たちまち)ち猛火に遮られ、久保山へも、中学校方面へも行くことが出来なかったといふ絶望に陥りながらも、前後左右から火に攻められ〉
〈線路に近い住民は鉄道線路へ避難したが、間もなくこの方面も火の海となってしまった〉

 猛火は西消防署の前身、「第一消防署」にも及ぶ。周囲は火に包まれ、ホースが焼損して水圧が低下。十分な放水ができないまま、建物が焼け落ちるという苦渋を味わう。

 だが、光もあった。
 戸部警察署長の命令で火災現場に向かった署員が町民と協力して消火に当たったことも、震災誌には描かれている。

 〈必死となりて防火に努めたので、久保町方面よりの火は喰止めた〉
 約100戸が焼失し、数人の犠牲者が出たものの、他町に比べて被害は小さかったと伝えられている。=敬称略


スタンドパイプ式初期消火用具の扱い方と消火栓への接続方法を伝授する消防署員
スタンドパイプ式初期消火用具の扱い方と消火栓への接続方法を伝授する消防署員

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