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現実から逃避…昼夜逆転 ネット依存深刻化

社会 | 神奈川新聞 | 2013年10月13日(日) 12:04

ネット依存について語る中山秀紀医師=2013年10月9日撮影
ネット依存について語る中山秀紀医師=2013年10月9日撮影

オンラインゲームやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用が広まる中、インターネットに長時間没頭する「ネット依存」が問題になっている。パソコンの前から離れられず、日常生活の昼夜が逆転、やがて学校や会社に行けなくなり-。国立病院機構久里浜医療センター(横須賀市野比)の専門医は「本人の心身に影響を及ぼすだけでなく、社会的損失も大きい」と警鐘を鳴らす。

久里浜医療センターの中山秀紀医師(40)は感心したように嘆息する。

「最近のゲームは本当によくできていましてね」

パソコンを使ったオンラインゲームの発展にネット依存の一因をみている。

専門外来の開設から2年余りで約170人の患者が訪れたが、ほとんどがオンラインゲームにのめり込んでいた子どもたちだ。「大半が中学生から大学生までの若年層。10代だけで半数を超え、20代を含めると9割を占める」という。

人気があるのは多人数が同時に参加できるタイプのものだ。ネットを通じて知り合ったプレーヤー同士でチームを組み、協力して敵を倒す。「自分一人だけやめるわけにいかない。妙な責任感と信頼感、連帯感が生まれる」。一度始めたらやめにくい仕組み。しかもみんながやっているから、のめり込んでいるおかしさに気付きにくい。

センターに治療にやってくる子どもからは、ある傾向が浮かび上がってくるという。

「勉強ができる子、とくに進学校に通っている子どもが典型的だ」

どういうことか。中山医師が続ける。「ネットの世界の方が、現実社会より成功体験を得やすいということがあるかもしれない。例えば勉強でつまずき、学校の中で自分の存在意義を見失い、居場所がなくなる。それがネットゲームの世界ではすごいことができて、チームの中で称賛される。これが悪循環の始まり。ますます勉強しなくなり、成績が落ち、居心地のいいネットの世界に現実逃避していく」

■難しい自覚

ネット依存に陥るとどうなるのか。

生活サイクルの昼夜逆転によって学校に通えなくなり、家に引きこもりがちになるだけではない。睡眠障害やうつ症状といった精神面のトラブルを招く。食事を取らなくなり低栄養、視力や筋力の低下、骨粗しょう症といった身体的な症状もきたすようになる。

ネットが急速に普及した韓国では、2002年ごろからオンラインゲームをやり続けたまま脳血栓や心不全などで急死するケースも相次いだ。

あらゆる依存症は本人が自覚を持つことが抜け出す第一歩になるが、その自覚が難しいのも特徴だ。

アルコール依存症なら酔いや体がむしばまれるといった自覚症状がある。ネット依存は直接の症状を感じにくい。ましてや子どもであれば、解決策を自分で考えつくことは難しく、深刻化していく。

ゲームを取り上げるのも逆効果。ゲームがあることで精神的に安定している面があり、取り上げれば不安になる。暴言や暴力で親に当たるようにもなる。

■未知の世界

中高生51万人、成人271万人-。厚生労働省の研究班が発表した全国でネット依存が疑われている人の推計値だ。

あくまで推計値。中山医師は「研究が始まったばかりで実態は把握し切れていない。ただ、年々増加していることは間違いない」と話す。理由に挙げるのが、ここ数年で急速に普及したスマートフォン(多機能携帯電話)の存在だ。

オンラインゲームはスマホでもできるようになり、場所を選ばない。家に引きこもるわけではないから家族も異常に気付きにくい。

治療に訪れているのは5対1の割合で男性が多く、女性が少ない理由もよく分かっていない。オンラインゲーム以外にも、メールや短文投稿サイト「ツイッター」などのSNSに依存している人も問題視されているが、そうしたケースで訪れる患者は少数だ。

ネット依存自体がまだ認知されておらず、治療機関もまだ数少ない。久里浜医療センターには神奈川、東京を中心に北海道から九州まで全国の患者が集まるが、氷山の一角の可能性がある。

新しい症状で診断基準も確立されていないのが現状だ。いずれにしろ現代社会でネットとの関わりを完全に絶つことは難しい。ひととき依存から抜け出せても、大学、社会人に進めば、勉強や仕事でどうしても必要になる。便利なものだから使わないわけにいかない。何かのきっかけでまた依存してしまうことは容易に想像できる。「結局、いまの社会はネットと切り離すことができない。うまく付き合っていくしかない」。中山医師の現時点での結論だ。

◇23歳男性

5年間ゲーム漬け、将来考え治療

久里浜医療センターではネット依存から抜け出すためにカウンセリングを中心に行い、生活の改善を促している。

スポーツや絵を描いたりしてネットから離れる時間をつくり、日中を同センターで過ごすデイケアもある。

「まずはネット以外の新しい活動を見つけてもらい、生活リズムを取り戻すことが第一。その活動を楽しめればなおいい」と中山医師。大切なのはネットとの距離感で、いきなりネット環境を完全に制限することは根本的な解決にならないという。

県内に住む男性(23)は高校卒業と同時にオンラインゲームを始めた。すぐにのめり込み、抜け出せなくなった。起きている時間の大半はパソコンに向かい、自然と昼夜が逆転した。そんな生活が5年続き、ふと思った。「このままでは駄目だ」

同センターでの治療をニュースで知った父親(65)に勧められ、すぐに受診を決めた。「交友関係も少なく、今後を考えたときに、もっと人と関わらなくては駄目だと思った」

父親は自宅でゲームに熱中する息子の姿に「気持ちも不安定になっているようだった。ただ、どう解決すればいいか分からなかった」という。担当医から説明を聞いた父親は「本人も依存性を自覚しているから解決は早いだろうと言われて安心した。ゆっくりでも改善していけたらいいと思う」。

男性は通信制大学の4年生。卒業時期は未定だが、いずれ就職し、社会人として生活したいと考えている。

■ネット依存の現状

厚生労働省の研究班は昨年10月から今年3月にかけて無作為抽出した全国の中高生14万人を調査。回答を得た9万8千人のうち8.1%がネット依存が強く疑われることが判明、ネット依存の生徒は51万8千人に上ると推計した。

「病的な使用」と判定された生徒は男子6.4%、女子9.9%。うち6割が睡眠障害を抱えていた。平日のネット使用の平均時間が5時間以上としたのは中学生9%、高校生14.4%。休日は中学生13.9%、高校生21.2%だった。

2008年に成人を対象にした調査では271万人にネット依存の傾向があると推計されていた。

ネットが急速に普及した韓国では02年ごろからオンラインゲームの長時間利用が原因で脳血栓、心不全などで急死するケースも相次ぎ、社会問題化。16歳未満は午前0時から同6時までネットにアクセスできない「シャットダウン制度」の導入や治療方法の構築、相談窓口の開設など、国を挙げて対策に乗り出している。

【神奈川新聞】

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