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インクルーシブ教育を問う
【特集】〈時代の正体〉 高校「共に学ぶ」手探り  県立3校に知的障害者ら受け入れ枠

社会 | 神奈川新聞 | 2017年4月18日(火) 22:08

【時代の正体取材班=成田 洋樹】県教育委員会は2017年度から、障害の有無にかかわらず共に学ぶインクルーシブ教育を県立高校で推進するために、軽度の知的障害のある生徒らを3校で受け入れる新たな取り組みを始めた。知的障害のある生徒が進学するケースはこれまでもあるが、高校で学びたい生徒の進学機会を拡大させるとして受け入れ枠を新設。計31人が入学した3校は、手探りのスタートを切った。

 県立高校改革の一環としてインクルーシブ教育実践推進校に指定されている3校は、茅ケ崎、厚木西、足柄。最大で1学年計21人(7クラスに各3人ずつ)を毎年受け入れる。27年度までに推進校を20校程度までに拡大する。

 対象は、知的障害者に発行される療育手帳の障害程度4区分のうち最も軽度の「B2」程度の生徒。手帳の有無は問わない。中学校長推薦で志願者を決め、入試は学力試験を課さずに面接のみ。

 教諭の人員については、通常の学校より各校とも7人増やす加配措置を取った。特別支援学校の勤務経験者らを配置し、授業は原則として2人で担当する。できるだけ同じ教室で学ぶことができるように生徒同士が関わる機会が多い授業スタイルを模索し、必要に応じて個別指導を行う。成績については、生徒個人の達成度を測るために特別支援教育で行われている「個人内評価」を加味して総合的に評価する。特別支援学校と比べて卒業後を見据えた就労実習が少ないことについては、企業見学やインターンシップの実施などを検討する。

 今春行われた入試では各校とも定員21人に達せず、茅ケ崎8人、厚木西15人、足柄8人だった。県教委インクルーシブ教育推進課は「初めての取り組みのため進学後の学校生活のイメージがしにくかったことが要因。関心がある保護者や生徒もおり、このままの水準で推移するとはみていない」としている。

 3校の所在地の市と近隣町の小中学校計7校では、できるだけ通常学級で学びながら個別支援が必要な場合は専用の「みんなの教室」で過ごす取り組みが進められている。その経緯から3校が実践推進校に選ばれた。

分かれた進路なぜ



 県教育委員会は2017年度から、障害の有無に関わらず共に学ぶインクルーシブ教育の一環として、軽度の知的障害のある生徒らの受け入れ枠を県立3高校に新設した。対象校に進学した生徒もいれば、養護学校高等部を選んだ生徒もいる。進路の判断の分かれ目は何だったのか。

もっと一緒に過ごしたい 高校に進学


 「人前で自分から話すのは苦手」。この春「受け入れ枠」で県立茅ケ崎高校に進学した男子生徒は時にはにかみながら、とつとつと語った。

 茅ケ崎市立小学校4年生のころから、集団に溶け込めずに学校を休みがちになった。同市立中学校からは1クラス7人ほどの少人数の特別支援学級でゆったりと過ごした。

 好きな社会科は通常学級で授業を受け、3年生のときにはテストで90点近い点数を取ることもあった。「公民では『三権分立』、歴史では『第2次世界大戦』のところが面白かった」と笑顔をのぞかせる。

 通常学級の生徒とは、スマホやゲームの話題で盛り上がった。打ち解けた友達からは、「声が大きい」とたしなめられることもあったという。2年生のときには同学年約120人の前で体育館のステージに上り、スーパーで職場体験をしたときのことを話した。男子は「緊張しなかった」と振り返るが、支援学級の担任教諭は「3年間を通して徐々に自信を付けていったのだと思う」と目を見張る。


茅ケ崎高校を選んだ理由を話す生徒と母親=茅ケ崎市内
茅ケ崎高校を選んだ理由を話す生徒と母親=茅ケ崎市内

 中学卒業後の進路を見据えて知的障害者に発行される療育手帳の申請をしてみたが、障害があるとは判定されなかった。ただ、母親は、学習の進み具合から進学できる学校は限られていると感じていた。

 志願先としては県立有馬高校(海老名市)内にある県立座間養護学校の分教室、入試で学力試験がなく就労支援に力を入れている県立田奈高校(横浜市青葉区)が候補として上がったが、茅ケ崎高校を選んだ。

 「高校は、話し相手が多いクラスの中で過ごしたい」。中学校で日常的に付き合うのはこぢんまりとした支援級の生徒たちだったので、多くの生徒と知り合える環境を望んだ。自宅から自転車で通える範囲というのも決め手の一つだった。

 母親は「将来の進路のことを考えると、高卒資格が取れるというのは大きい。ただ、クラスの規模が大きくなるなど環境が変わるので、周囲の生徒が受け入れてくれるかが心配」と不安も口にする。

 担任教諭は「自分から話すのは得意ではないので、まわりから声を掛けてほしい。慣れてくれば話が弾むこともあるし、気の合う生徒がいれば有意義な3年間になる。同じ高校の仲間として思いやりを持って付き合ってくれたら」と望んでいる。

 男子は茅ケ崎高の授業を昨年見学したとき、落ち着いた雰囲気の生徒たちの姿を見て「自分もここでやっていけるのではないか」と意を強くした。「仲の良い友達をつくり、どの科目も90点以上取れるように頑張りたい。特別扱いしたりしないで、自然に接してくれれば」。新生活では早速、クラスで友達ができたという。

 サッカーJ1の川崎フロンターレの中村憲剛選手が大好きで、等々力陸上競技場での観戦に足を運ぶほどのファンだ。料理上手でハンバーグが得意。家族にも振る舞うことがある。「卒業後は調理師専門学校に進学して、中華の料理人になりたい」と将来の夢を語った。

「共に学ぶ」小中学校こそ 養護学校に進学



 茅ケ崎市立中学校特別支援学級に通っていた男子生徒は自閉症で、障害程度は「B2」。インクルーシブ教育を行う県立茅ケ崎高校への志願資格の一つである「B2」という基準を満たしていたが、県立茅ケ崎養護学校高等部に進学した。支援級で一緒に過ごした先輩の名前を挙げながら、「会うのが楽しみ」とほほ笑む。

 茅ケ崎高校への進学に二の足を踏んだわけではなく、むしろ選ばなかったと父親は語る。

 「息子は中学で学ぶべきことを修了したとはいえず、健常の生徒と同じ教育内容を学ぶことは難しい。そのような状況で同じ教室で学ぶ意義は、息子にとってどれだけあるか、疑問だった」

 小学校から支援級で過ごしてきた男子のペースで学んでさまざまな力を付けていくためには、養護学校高等部の方が向いていると判断した。

 「中学で習う数学の方程式のようなことを理解するのは難しいが、ちょっと難しい分数の計算はできる。漢字も結構覚えている。読解力も少しずつ付いている」


茅ケ崎養護学校高等部1年の男子生徒(右)と一緒にくつろぐ家族=茅ケ崎市内
茅ケ崎養護学校高等部1年の男子生徒(右)と一緒にくつろぐ家族=茅ケ崎市内

 父親は息子の成長を実感しているからこそ、高校の授業内容がよく分からないまま同じ教室に居続けるようであれば、力を伸ばす機会を失うようで時間がもったいないと感じている。

 母親は県教育委員会主催のインクルーシブ教育説明会に参加した際、同じB2の子がいる親と首をかしげた記憶がある。

 「どういう子がインクルーシブ教育に取り組む高校に行くのだろう」

 志願資格ではB2に加えて、「集団での学習、生活が可能な生徒」「公共交通機関などを使って自力通学が可能」など五つの条件が課せられていたからだ。

 父親にとってみれば、B2の子どもたちの実情を踏まえた条件とは思えなかった。

 「5条件をすべて満たすような生徒は、健常者に極めて近いのではないか。この条件で、障害の有無にかかわらず共に学んでいるといえるのだろうか」

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