1. ホーム
  2. ニュース
  3. 社会
  4. 貧困の児童助けたい 元教員が学習支援

貧困の児童助けたい 元教員が学習支援

社会 | 神奈川新聞 | 2017年4月12日(水) 14:30

小学生らの学習指導に当たる長澤さん(右端)ら元教員たち =横浜市神奈川区
小学生らの学習指導に当たる長澤さん(右端)ら元教員たち =横浜市神奈川区

 横浜市神奈川区で、中学、高校の元教員が小学生らを対象に無償の学習支援を始めて1年になる。子どもたちを取り巻く経済的な壁、国籍の壁を超えて尽力。地域と手を携え、きめ細かい指導に当たる。主宰する長澤和子さん(67)=同市神奈川区=は「貧困の連鎖を防ぎたい。一度つまずいても学ぶチャンスを再びつかんでほしい」と話す。

 水曜夕方、神之木地区センターが入る施設の一角に子どもたちが集まってきた。席に着き、かばんから取りだすのは国語、算数のドリルや教科書。程なく、20席は埋まる。近くに住む小学4年生の男児は「分かりやすく教えてくれる。隣で他学年の人が勉強する姿を見るのも励みになる」と話す。

 長澤さんは区内の私立学校で世界史を教えていた。親の経済力が子どもの学力に影響を与えているニュースに触れ、「理不尽。少しでも食い止める活動がしたい」と、昨年3月に教室を開いた。かつての学校仲間の賛同も得て、現在は「かみのき塾」「たんまち塾」の2カ所で8人が隔週水曜に教えている。

 先輩教師で元民生委員の石田迪子さん(74)=同市神奈川区=は「塾に行けなかったり、一人親の子どもの居場所になる」と共感。私塾で国語を教え、区の児童委員でもある植松満美子さん(62)も「一人でも思い立ってやろうとする人がいる」と、メンバーに加わった。

 教室では、当日の学習目標や次回以降勉強したいことを書かせる。長澤さんは「全部教えるのではなく、学習習慣をつけさせるのが一番大事」と考えるからだ。

 通う子どもは2施設合わせて、50、60人。中には日本に来たばかりの就学前の外国籍の子もいる。日本語はほとんど話せなかったが、わずかな間に自分の名前が書けるようになり、意欲的に通っているという。長澤さんは「学習のつまずきが小さいうちに手を差し伸べることで、分かる面白さや楽しさに気付くようだ」と充実感を口にする。

 一方で、歯がゆさも感じている。経済的に厳しい家庭環境にいる高学年の児童が姿を見せなくなった。向き合い方に問題はなかったか、教え方が妥当だったのかとメンバーで話し合うが、悔いや気がかりは今も残る。

 親に連絡しても「子どもが行きたがらない」と返されることがある。言葉や寝起き、洗顔、歯磨きなど基本の生活習慣さえなおざりにされた子どももいて、親から子への“負の連鎖”を感じるという。

 「生活を送る厳しさに親が追われ、学力も学習習慣も育たないままの子どもたちがいる。家庭、学校、地域の連携と行政の支援が不可欠」と痛感している。

 勤務していた学校からは参考書などを、区内の寺院「倶生山(ぐしょうさん)なごみ庵」からは菓子の提供を受けるなど、活動の理解者も増えている。中学生も教室に訪れ始め、「専門分野の質問に応えられるのはわれわれの強み。家庭の事情とは関係なく、学びたいと思う子は誰でも歓迎。課題を分析し見つめながら、2年目を迎えたい」と前を向く。

 申し込みなどの問い合わせは、メールアドレスkaminokijuku@gmail.com

◆ ◆ 同市では「貧困の連鎖を断ち切るためにも、子どもへの支援は重要な事業」と位置付ける。

 生活保護世帯などの中学生を対象にした勉強をボランティアの大学生らが助ける「寄り添い型学習支援事業」を実施。2017年度は1億8千万円を計上した。中学生の受け入れ枠を90人増の810人とし、高校に入学した生徒の中退を防ぐ取り組みにも力を入れる。

 「寄り添い型生活支援事業」も継続している。生活困窮状態にある家庭の小中学生が対象。「子どもたちにあいさつの習慣や手洗い、入浴、洗濯、簡単な調理を教える」という。保護者からも相談を受け付ける。現在、8区で実施し、17年度からは新たに3区拡充する。

 県でも10年度からモデル事業を実施。元教員や児童相談所の元職員らによる「子ども支援員」を保健福祉事務所に置き、家庭訪問や個別相談などを通じて、生活全般の支援をする。

 対象は0歳児の子育てから高校卒業後の進路までとし、県生活援護課は「進学のみならず、時間がかかるが、早い段階から携わることで効果的な支援ができる」と話している。


 沖縄大学名誉教授で、「貧困児童」(創英社/三省堂書店)を昨年出版した加藤彰彦さん(75)=横浜市栄区=は「子どもの貧困を放置した場合の社会的損失は極めて大きく、子どもの貧困脱出は社会全体にとっても大切な課題」と警告。その対策として次の五つを挙げる。

 (1)「子どもの貧困」に気づくこと。そして、できることを考えること(2)貧困家庭・貧困児童に関わっていこうという気持ちを抱くこと(3)地域で孤立し、ひとりぼっちでいる子どもたちを放置しない取り組みをすること(4)地域での話し合いを通して、解決のために具体的対策をつくり、課題やいつ始めるかなど明確にして実践すること(5)具体的な支援対策を実践する専門員(子どもソーシャルワーカーなど)や協力者を準備し、円滑に活動を継続すること-。

 「子どもが貧困状況に陥っているということは、子どもの生きる権利が奪われてしまうことだ。社会全体の構造をつくりあげた私たち大人の責任であって、子どもたちには責任はない」と訴える。

 児童は、人として尊ばれる▽児童は、社会の一員として重んぜられる▽児童は、よい環境の中で育てられる-。1951年に制定された児童憲章が掲げる三つの原則だ。

 加藤さんは著書で「私たちはすべての子どもたちが私たちみんなの子どもだと考え、その子どもたちが安心して成長発達していける環境をつくることを約束し、その実現を目指してきた」と記し、「一人でも多くの人に子どもの貧困について一緒に考えてもらいたい」と呼び掛ける。

貧困対策に関するその他のニュース

社会に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

アクセスランキング