患者の命を預かる現場に衝撃を広げた事件から半年。一部の医療機関では医薬品の管理体制強化に向けた動きが進む一方、現場からは「悪意のある行為を防ぐのは難しい」との声が漏れる。「善意」が前提とされる医療現場の安全を守る手だてはあるのか-。有効策を見いだすための模索が続いている。
「死角をなくし、事後確認やトラブルの抑止につなげる」。横浜市立市民病院は事件後、ナースステーションの出入り口を写す防犯カメラを増設した。「全てに鍵を掛けると治療に遅れが出たり、業務が回らなくなるかもしれない」と点滴袋などの施錠管理は未実施だが、「トラブルを防ぐ環境をつくるため、できる努力を重ねていく」としている。
川崎市は医療監視チームが市内40医療機関に年1回実施する立ち入り検査で、点滴袋など医薬品の管理体制に関する聞き取りを開始。「リスクをより軽減できる方法を、病院と一緒に考えている」と強調する。
病院の安全対策がクローズアップされた大口病院の点滴殺人事件。休日に使用予定の点滴袋をナースステーションに無施錠で保管していた同病院は事件後、▽1日分を戸棚で施錠管理▽着色された消毒薬に変更▽病棟に防犯カメラを設置-などの対策を講じた。安全強化の動きは、点滴袋に穴が見つかった大阪府立成人病センターや山口県の森山病院など、県内外の医療機関で出始めている。
しかし、現場からは「施錠だけでは根本的解決にならない」との声も。薬品の誤投与や処置のミスなど医療事故の防止対策は従来から強化しているものの、院内事情に詳しい人物による悪意のある行為は防ぐ手だてが見当たらないのが実情だからだ。
南山大法科大学院の加藤良夫教授(医事法)は「誰でも患者に近づける医療現場は、善意が前提で成り立っている世界。完璧に犯罪を防ぐのは難しい」と指摘、「患者の安全を第一に、管理体制の見直しなどできることを地道にやっていくしかない」と語る。