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共謀罪考
時代の正体〈454〉危機迫る「表現の自由」 報道人の姿勢を自ら問え

社会 | 神奈川新聞 | 2017年3月19日(日) 10:17

日本ペンクラブ 山田健太氏
日本ペンクラブ 山田健太氏

【時代の正体取材班=田崎 基】政府が間もなく閣議決定しようとしている「共謀罪法案」。テロ等組織犯罪準備罪と名を変えても、犯罪を計画段階で処罰する内実はなんら変わらない。1921年創立の「日本ペンクラブ」が表明した反対声明文を起案した言論表現委員長の山田健太専修大教授(言論法)は、関心の薄い社会、とりわけ報道人の姿勢にこそ危機感を抱く。「法が成立すれば表現の自由は萎縮する。根拠のない推測ではない。歴史的事実が物語っている」

 日本ペンクラブが感じている危機感は極めて強い。それは存在意義、発足の原点こそが「表現の自由」を守ることにあるからだ。私たちは常に「社会のカナリア」であろうとしている。少しでも危機があればその芽を摘み取らなければならない。

 会員の平均年齢が70歳を超えているというせいもあるだろう。戦争で父を失っていたり、幼少期に終戦を迎えた人も少なくない。戦争の実体験がある。

 物書きとしての鋭敏な感覚で戦争の窮屈さを感じ取ってきたのだ。それゆえに私たちは共謀罪が思想・表現の自由の侵害につながる可能性が高い、とまさに直感している。

 かつて共謀罪が国会に提出された段階から反対声明を出してきた。特定秘密保護法についても計3回にわたり反対意見を表明してきた。とにかくしつこくやってきたという自負がある。

 今回の声明も2016年11月ごろには理事会で基本方針を確認していた。

 特にこだわったのはタイトルだ。共謀罪が市民社会や表現の自由にどういう影響があるのか、分かりにくい。この分からなさをどうするか。分かりやすく、かつ本質を突かなければならない。だからこう表現した。

 〈共謀罪によってあなたの生活は監視され、共謀罪によってあなたがテロリストに仕立てられる。私たちは共謀罪の新設に反対します〉

内心が対象


 問題は共謀罪そのものと、その周辺にある共謀罪的なるものという両面がある。

 共謀罪そのものの問題点は、立法事実や構成要件があいまいだとか、既遂処罰を原則とする刑法体系を一変させるなどといった問題がある。これらは大前提であって私たちも当然問題視している。ただここは法律家に任せたい。


日本ペンクラブ 山田健太氏
日本ペンクラブ 山田健太氏

 私たちはその次にある問題として思想・表現との関係について懸念を表明する。

 共謀罪は計画の「合意」で逮捕される。有罪となること以前に、とりあえず身体を拘束されることになる点に強い懸念を持っている。

 なぜなら「表現の自由」の本質とは、言いたいときに、言いたい場所で、言いたいことを言えることにあるからだ。何年もたってから、あるいは誰も聞いていないような場所で表現できても意味はない。

 合意だけで身体を拘束されるとすれば、

こうした自由が全面的に侵害され、その程度は計り知れないほど大きい。

 共謀罪にはこうした危険が付きまとう。それは共謀罪が「合意」という極めてあいまいな構成要件によって摘発し得るからだ。警察の恣意(しい)的な判断で「とりあえず摘発しよう」ということが可能になる。

 「合意」には外形的な判断基準がない。内心、つまり頭の中を判断しなければいけない。従って「こういう行動をしているから」などと推測し、合意の有無を判断しなければならない。ここには確実に恣意的要素が含まれる。表現者にとって極めて制約の大きな刑事法になると言わざるを得ない。

監視の未来


 こうした「合意」を取り締まろうとすれば、証拠が必要になる。通信傍受法の対象を拡大し、捜査方法を多様化させることにつながるだろう。監視を徹底していかなければ証拠が手に入らず、取り締まりもできないからだ。

 報道人の取材行為もまさに対象になる。

 新聞社が組織的犯罪集団だと認定されるかどうかは別として、記者は実際にテロ組織や暴力団に取材することもあるだろう。犯罪に関連する情報提供者との接触も考えられる。

 捜査機関が常に新聞社や表現者の取材を盗聴の対象とする可能性は高い。

 また、「とりあえず摘発する」というケース

の重大性も強調していく。

 何も根拠もなく指摘しているわけではない。治安維持法の例を引くまでもなく、これまでも警察や検察は、写真家の加納典明さんや篠山紀信さんを略式起訴したり、最近では漫画家のろくでなし子さんを逮捕、拘留、起訴し、有罪判決(罰金40万円、控訴審中)まで下した。これはいずれも刑法の「わいせつ」規定が実にあいまいな構成要件だから恣意的運用が可能になっている具体例だ。

 この見せしめ的な摘発の効果は極めて大きい。萎縮するのは表現者だけではない。より影響を受けているのは、出版社やその経営者たちだ。

 いま議論している共謀における「合意」は、この「わいせつ」の概念とは比較にならないほどあいまい極まりない。いかようにも恣意的運用ができる余地がある。

 恣意的な法の運用について根拠がないという反論もあるようだが、いま沖縄で起きていることを見れば現実的な危険性があることが分かる。例えば、基地建設に反対している「沖縄平和運動センター」の議長、山城博治さんは昨年10月に器物損壊の疑いで現行犯逮捕されて以来、公務執行妨害や威力業務妨害で再逮捕が繰り返され、約5カ月にわたり身体拘束が続いた。

 こうした実例がわずかここ数年の間に行われていることに目を向ければ、共謀罪成立によって表現の自由がほぼ間違いなく侵害されることが分かる。

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