
国際人権法・難民法の研究者で元難民審査参与員、阿部浩己・明治学院大教授が、日本の難民認定手続きの問題点について横浜市内で講演したのは、入管難民法改正案の審議が大詰めを迎えようとしていた5月28日のことだった。
その5日前、自身も参考人質疑に応じた阿部教授は、難民審査に10年間当たった経験から「参与員は難民認定の専門家ではなく、保護すべき人を確実に保護できていない」と証言。その「告発」は、参与員に実務研修すら受けさせていないという認定手続きの杜撰(ずさん)さを浮かび上がらせ、政府が法改正の立法事実とする「申請者の中に難民はほとんどいない」という柳瀬房子参与員の発言の信憑(しんぴょう)性を揺るがすものでもあった。
政府はなおも申請の最中は送還されない現行制度が乱用されていると主張し、申請回数を2回で区切り、以降は原則強制送還の対象にする改正案を押し通そうとする。入管の権限を強化し、排除を促進する「改正」が制度的、歴史的にいかに誤りであるか。採決が近づくいま、阿部教授の講演から確かめておきたい。(構成・石橋 学)