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平和つなぐ 広島被爆77年
被爆地の警告  声、届いていますか

社会 | 神奈川新聞 | 2022年9月20日(火) 10:22

被爆体験を語った山本さん=広島市

 「あれはいけません。日本が参加せんというのはおかしいよ」。8月、広島市内。地方紙記者らに被爆体験を語っていた山本定男さん(91)が、きっぱりと言った。

 6月にオーストリアで開かれた核兵器禁止条約の初の締約国会議に、日本政府が参加しなかったことについて記者から問われた一幕。「何も核拡散防止条約(NPT)だけにこだわらず、あらゆる場面に出て行くのが被爆国の義務だと思いますね」と続けた。

 77年前は広島県立第二中学校の2年生だった。当時、空襲に備えて防火帯をつくる建物疎開作業に1、2年生が交互に駆り出されていた。8月6日は1年生が建物疎開。2年生は東練兵場での草取りだった。

 東練兵場は爆心地から約2・5キロ。山本さんは顔にやけどを負ったが、命拾いした。一方、建物疎開の場所は約500メートル。1年生約320人は「全滅」だった。

 生き残った者として「1年生の分も」と証言を続けてきたが、ウクライナを侵攻したロシアが核使用を示唆し、「歴史は繰り返す」との思いを深める。「核があると人類が絶滅するんだということを、世界にしっかり訴えないといけない」

平和記念公園内を歩く人たち。原爆死没者慰霊碑の先に原爆ドームが見える=7月、広島市

プーチンさんも来て

 被爆77年の夏、広島市が主催するジャーナリスト研修に参加した記者が託されたのは、核兵器の惨禍を知る一人一人からの警告だった。15歳で被爆した女性は「プーチンさんも広島に来て見てもらいたい。少しは考えるじゃろう」とつぶやいた。遠方から車いすで広島入りした被爆者の女性は「世界の国々が戦争の気配を見せているのが怖い。平和が壊されるんじゃないか」と涙を浮かべた。

 8月6日の平和宣言では、松井一実市長がウクライナ侵攻に言及し、世界で核抑止論が勢いを増していると指摘。「全ての核のボタンを無用のものに」と訴えた。導入部には被爆時16歳の女性の体験記を引用した。被爆者らが苦難の末に到達した「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という思いを、この街のかじ取りの中心に据えてきたからだ。

NPT機能不全露呈

 その約3週間後のニューヨーク(NY)。ロシアを含む核保有国も参加し、核軍縮や不拡散を規定するNPTの再検討会議は、最終文書を採択できずに決裂した。核兵器使用の現実味が帯びる情勢下で危機回避の道筋を示せず、NPTの機能不全も露呈した。

 被爆地の声は世界に届いているだろうか。会議に合わせてNYに飛んだ若者の言葉が暗示的だった。広島県福山市出身で、「ノー・ニュークス・トーキョー」共同代表の高橋悠太さん(22)は最前線の議論をオンラインイベントで報告し、議場の雰囲気をこう伝えていた。「高齢化にコロナ禍も重なり、今回渡米した被爆者は非常に少ない。『重し』というか、彼らが訴えてきた『核を絶対に使ってはいけない』というアンチテーゼがどんどん薄らいでいく危機を感じる」

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