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追う!マイ・カナガワ
丹沢で崩壊進む山小屋 所有者名乗り事情告白 解体に課題

社会 | 神奈川新聞 | 2022年8月10日(水) 05:30

 丹沢表尾根の新大日山頂で崩壊が進む山小屋「新大日茶屋」について取り上げた5月30日付の「追う! マイ・カナガワ」の報道を見て、山小屋の所有者が名乗り出て、休業して放置せざるを得なかった事情などを告白した。また、記事を読んだ多くのハイカーらからは「解体するなら作業を手伝いたい」という声も寄せられている。どんな解決方法があるのか、皆さんと一緒に考えたい。

「父の形見」継いだが

1970年代、多くの登山客が山小屋を訪れていた頃の集合写真。後列右から3人目が父辰雄さん、同5人目が諸星さん(諸星さん提供)

 「ご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ありません…」。秦野市内で取材に応じた「新大日茶屋」の所有者諸星晃さん(76)は「ずっと解体しなきゃいけないと思っていました。あのままの状態が許されるわけはありません」と切り出し、これまでの経緯を説明した。

 新大日茶屋は1961(昭和36)年、林野庁の平塚営林署(現東京神奈川森林管理署)に勤めていた父辰雄さんが、仲間たちと資材を運び完成させたという。昭和の登山ブームの時代、高校や大学の山岳部員が食料や飲料を荷上げして営業を続け、休みの日には諸星さんも手伝った。

 76年に父が亡くなり、諸星さんが経営を引き継ぐことに。平日は会社員、土日は小屋番という二刀流が始まった。

 「父の形見」として引き継いだが、経営は楽ではなかったという。何度も辞めようと思ったが、継承者が見当たらず、常連客にも「まだできる」と励まされ続けた。悩む諸星さんの脳裏に辰雄さんの顔が何度も浮かんだ。「おやじが頑張って建てた小屋。自分も頑張らないと」

心臓病患い山に登れず

小屋の常連客と写真に映る諸星さん(右)。この後まもなく、病気を患い山へ登れなくなったという=2008年12月

 小屋番冥利(みょうり)に尽きるエピソードは数多い。

 夜遅くでも「泊めてほしい」と玄関をたたく登山客がいれば、寝床は満員でもストーブの近くで寝てもらった。昼にまきを割ったり水をくんだりしていると「ご苦労さん」と声をかけられることもあった。気付くと30年。父を超えていた。

 そんな諸星さんは2009年ごろ、心臓病を患った。以来、山へは登れていない。「突然のことで、中も外も片付けられないまま下りてしまった。分かっていれば、店じまいに向けて動くことができたのですが」

 その後は東京神奈川森林管理署から送られる写真で無残に朽ちていく様子を知るのみで、自身で確かめたくても確かめられず、片付けられないまま時が流れた。

 前回の記事を読んだかつての宿泊客からは「変わり果てた姿に涙が出た」と連絡もあったという。「自分も記事を見て、危険も多くこれ以上放置できないと踏ん切りがつきました」

 取材班に「解体のお手伝いをしたい」という声が寄せられていることを伝えると、言葉を詰まらせた。

 「ありがたい話。本来なら私が率先して動かないといけないのに。病気で動けないのは申し訳ない。自分は上まで登れないが、(金銭面でも)できる限りのことはしたいです」

解体・撤去に多額費用

1960年代に登山道に面した入り口に山小屋名を書く諸星さん。小屋ではフィルムやバッジなども販売していた(いずれも諸星さん提供)

 同管理署によると、解体して大量に出てくる木材は自然に返るものとはいえ、1本たりとも放置できないという。ただ、近隣の山小屋にまきとして提供することはできそうだ。より問題なのはトタンやガラスなどの建材や、放置された瓶などの廃棄物だ。これをボランティアの力だけで運び下ろすには限界がある。

 問題の小屋があるのは秦野市だが、土地は国、国定公園は県が管理している。今回の問題を所有者の責任と言ってしまえばそれまでだが、解体と撤去作業には多額の費用がかかり、搬送や処理方法などは国、県、市などが連携しなければ難しい面も出てきそうだ。

 過去には、塔ノ岳山頂の山小屋解体(13年)時にヘリコプターで廃材を運搬し、その費用約130万円を県の水源環境保全税で賄ったこともある。

 表丹沢の魅力向上を掲げている地元の秦野市は具体的な解決策の言及は避けつつ、「きれいな丹沢を目指して、できることを考えていきたい」としている。


山で慕われた「おやじ」

父辰雄さんが亡くなり、神奈川新聞に掲載された追悼記事=1976年2月5日付

 「新大日茶屋」開業から15年後の1976年2月、諸星さんの父辰雄さんは心臓病のため59歳で亡くなった。同5日付の本紙は、実直な人柄だった辰雄さんが山で「おやじ」と慕われていたことを伝えている。

 ごみを散らかす登山客には怒る一方で、山好きの若者たちをかわいがり、山小屋の経営者同士でもめ事があれば仲裁役を買って出た。「丹沢遭難救助隊」の山小屋隊長を務め、県警本部長表彰を受けたことも。

 当時30歳の諸星さんは「新大日茶屋はおやじの遺産。当分は会社勤めしながら守り、いずれは後を継ぎたい」と誓っていた。

 記事掲載からほぼ半世紀。「今は無残になってしまって申し訳ない」と反省しきりだが「きれいにしたよ、と親父に伝えられる日が来るといい」と願った。


取材班から

 前回の取材で「山の中とはいえ、空き家解体に安易に税金を使うことに理解が得られるのか」という指摘をいただいた。確かにその通りだと思うが、所有者に解体の意志があり、手伝いを申し出る有志の声も寄せられおり、行政の柔軟な対応を願いたい。解決への妙案をお持ちの方やボランティアに興味がある方、LINEでマイカナまでご連絡を!(最上 翔)


 神奈川新聞社は暮らしの疑問から地域の困り事、行政・企業の不正まで、無料通信アプリLINE(ライン)で読者から寄せられた取材リクエストに幅広く応える「追う! マイ・カナガワ」(略称・マイカナ)に取り組んでいます。

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