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追う!マイ・カナガワ パートナー紙から 静岡新聞
温泉の入浴着「誰でも自由に着用できれば」 現状と課題は

社会 | 神奈川新聞 | 2022年5月16日(月) 09:00

 読者の疑問や困り事に応える静岡新聞のオンデマンド調査報道「NEXT特捜隊」に、沼津市に住む女性会社員(50代)からメッセージが寄せられた。公衆浴場で乳がんなどの手術痕を覆う「入浴着」に関する記事を読み「手術経験者に限定すると、手術したと分かってしまう。自由に選択できるのが普通になれば」と思ったという。入浴着を取り巻く現状と課題を探った。

混浴での利用も

実証実験で使用された湯あみ着(環境省提供)

 入浴着を巡っては、乳がん経験者などに貸し出しをする温泉、温浴施設が県内外で徐々に増えているほか、利用の理解へ啓発を進める自治体や観光地もある。その流れとは別の動きがないか調べると、混浴利用者に入浴着(湯あみ着)を着てもらうという国の取り組みを見つけた。

 環境省は2021年度、湯治・混浴文化の継承と混浴の利用しやすさ向上を目的に、青森県の名湯、酸ケ湯温泉で実証実験を行った。男女共に入浴着の着用を義務化する日を設け、アンケートを実施した。

 同省によると、利用者の反応はおおむね好評で「人とのコミュニケーションが生まれた」など混浴の満足度が男女共に高まった。一方、周辺の温泉施設からは「衛生面が心配」「日本らしさ、風情がなくなるのでは」との意見も寄せられたという。

法律に規定なし

 入浴着が広く受け入れられるようになるには「衛生面」や「入浴文化」を考えることが鍵となりそうだ。

 入浴着の着用による衛生面への影響をどう考えるか。厚生労働省によると、公衆浴場法や旅館業法には入浴着に関する規定は特にない。担当者は「線引きが難しいが、衛生的に問題がない着衣であれば法律には反しない」と話す。

 「入浴着の衛生面を保証する認証マークやガイドラインがほしい」。関係者からはこんな声も上がる。

 入浴着の利用に理解を示し、啓発にも取り組む焼津市の温浴施設「笑福の湯」。市販の入浴着は素材などさまざまな種類があるが、同店で利用可能な入浴着は、衛生面で信頼できると判断した2種類に限る。事業責任者の小早川朝治さんは「入浴着のニーズは乳がんの方以外からもあり、利用は歓迎する」とした上で「どんな着衣でもOKとはしにくい。ガイドラインがあれば、店側、利用者双方の安心感につながる」と指摘する。

 障害者や介助者向けなどの入浴着を取り扱うメーカー「温泉百貨店」(東京都)の金井茂幸さんは「認証制度ができれば、入浴着を導入してみようと考える旅館、温泉施設が増える」とみる。

江戸後期まで着用

1827年刊、大根土成著「滑稽有馬紀行」(国会図書館蔵)に掲載される入浴風景の図。男女ともに湯具を身に付けている

 裸で入るのが一般的とされる入浴文化の観点からは、入浴着をどう捉えればいいのか。日本温泉地域学会の会長で、温泉評論家の石川理夫さん(東京都)に聞くと、意外な答えが返ってきた。「手拭い一つで入浴するスタイルは、この200年くらいの習慣で、日本の伝統的な入浴作法とは言えない」

 見せてくれたのが、江戸時代後期の「滑稽有馬紀行」に収録された図版。有馬温泉(兵庫県)の共同浴場の風景で、男女ともに湯具(男性は湯ふんどし、女性は腰巻き)を着用している。「奈良から江戸後期までは、温泉や寺院の浴堂、銭湯を問わず、入浴着着用が基本作法だった」と解説する。

 石川さんは「入浴文化の歴史から入浴着を捉え直す必要がある」とした上で「術後の方以外にも、性的マイノリティーの方、外国人旅行客などへの配慮が必要な時代。入浴作法の原点回帰とも言える入浴着スタイルが、広く受け入れられるようになれば」と力を込めた。(静岡新聞社)

 
 
 

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