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追う!マイ・カナガワ
ロシアから空路2万キロ 足止めのバレリーナ無事帰国

社会 | 神奈川新聞 | 2022年4月14日(木) 05:35

滞在先のウラジオストクのホテルから望む街並み=3月上旬(志賀さん提供)

 ウクライナ侵攻で緊張が高まる中、日本人バレリーナらがロシアのウラジオストクで足止めされている─と3月上旬に「追う! マイ・カナガワ」が伝えていた留学生18人が無事、帰国した。

 最年少は13歳で、ほとんどが未成年の生徒たちは、大雪や新型コロナウイルス禍にも見舞われながら、2週間で2万キロ超の大移動を余儀なくされたという。

 横浜市港南区の自宅に戻った志賀有季乃さん(17)が取材に応じ、「たくさんの人に支えられた」「ロシアの芸術がなくならないでほしい」と思いを吐露した。

困難をくぐり抜けて帰国した志賀さん=横浜市

 「今すぐ、泳いででも日本に帰りたい」。ウラジオストク滞在中の志賀さんが日本の親戚を通じ、マイカナ取材班にSOSを発信したのは3月7日だった。

 手にした航空券はウラジオストク経由成田行き。同5日夜、留学先のバレエ学校がある西シベリア・ノボシビルスクの空港で出発30分前に「日本までの運航取りやめ」を知らされていたが、行く当てもないままたどり着いた。

 ウラジオストクでは「成田行きが再開するかも」「臨時便や政府のチャーター機が」と、あらゆる可能性が浮上しては立ち消えた。ホテルの部屋を確保できた期限が迫る中、一部のクレジットカードは利用不可に。18人は精神的に追い詰められていった。

支え合った18人 ばらばらに―

 在ウラジオストク日本総領事館の支援もあり、志賀有季乃さん(17)ら18人が現地をたてたのは3月11日朝。ノボシビルスクに戻ってモスクワ経由でウクライナ空域を避けてトルコ・イスタンブールに到着し、「これで安心」のはずが受難は続いた。

 記録的な大雪に見舞われたトルコでさらに3日間も足止めされ、帰国便の空席もわずかで支え合った18人も別々の便となり、最後は2人きりに。志賀さんは母を心配させまいと電話口では「大丈夫」と涙をこらえ、電話を切るとせきを切ったように泣いたという。

 ようやく羽田に到着したのは16日夕。同便の利用客の感染が判明したため、空港近くのホテルで3日間の隔離生活を過ごした上に、帰宅後も家族と再会の抱擁を交わせぬまま、4日間の隔離生活となった。帰国費用は計70万円に上ったという。

ロシア以外の道 模索

 志賀さんがバレエを始めたのは、インターネットでロシアのバレリーナの動画に魅了されたことがきっかけだった。

 昨年9月から憧れの地でスタートさせた留学生活は半年で幕を閉じたが、「たくさんの人に支えてもらった。感謝を忘れず、海外バレエ団のプリンシパル(最高位)を目指して頑張りたい」と気丈に語る。現在は都内のバレエスタジオに通い、週6日のレッスンに明け暮れている。母依里奈さん(50)は「もう危ない目に遭わせたくはない」と言い、ロシア以外の国に留学する道を模索中だ。

 ロシアのウクライナ侵攻は今も続く。志賀さんは「ウクライナ人の命が奪われ、ロシアの芸術も乱されている。一刻も早く止めてほしい」と願いを込めた。

救いの手

帰国便から望むロシアの景色=3月中旬(志賀さん提供)

 3月上旬のマイカナの報道を受けて、心配する声が多く寄せられた中に、「うちの飛行機に乗りませんか」と支援を名乗り出てくれた人もいた。

 大阪府八尾市の航空機販売会社「エアロラボインターナショナル」の松本章吾さん(37)は、所有する航空機でサハリン在住の日本人を乗せて帰国する予定が急きょキャンセルとなったため、「いつでも飛べる準備をしていた」という。松本さんは「ニュースを見て何か力になりたいと思った。子どもたちだけで不安だったはずだし、長旅をよく帰ってこられた」と喜んだ。

 18人の帰国までには、モスクワやイスタンブールでも現地総領事館員らの手厚いサポートもあった。在ウラジオストク総領事館の職員は「他の総領事館と連携して対応するケースは珍しく、われわれも全館対応に当たった。無事に帰国してほっとしています」と話した。(清水 嘉寛)

人気の留学先に影 トップダンサー退団も

 バレエダンサーを目指す若者にとってロシアは人気の留学先だ。志賀さんが通ったバレエ学校にも日本人30人が在籍。うち29人が情勢悪化を受けて帰国したが、卒業間近の1人は残り、帰国者の中にも再び学校に戻って卒業を目指す意向を持つ人もいるという。

ロシアのバレエ学校でレッスンに励む志賀さん(本人提供)

 海外のバレエ教育に詳しい昭和音楽大学バレエ研究所(川崎市麻生区)によると、バレエはイタリアで生まれ、フランスで地位を確立したが、「ロシアはバレエを発展、普及させた国。ロシアで学び活躍するダンサーも数多い」という。名作「白鳥の湖」「くるみ割り人形」を生み、力強く華やかに舞うロシアバレエは日本でも老若男女に親しまれる。

 ロシアは国を挙げてバレエの発展に注力した側面が強く、志賀さんが通っていた学校をはじめ、指導力の優れた留学先はいずれも国立。主な劇場運営は政府の助成金で成り立つため、同研究所は「ロシアのバレエ界は政府に近い」と指摘する。ウクライナ侵攻による情勢の悪化でロシアのバレエ団は海外公演など活躍の場を失い、トップダンサーの退団、国外への亡命も相次いでおり、「ロシアのバレエ文化は大きな損失を受けた」(同研究所)とも。

 侵攻から数日後、志賀さんの留学先の学校長は緊急保護者会をオンラインで開き、「ロシアは戦地でないので安全。国土も広大だし、何よりロシアは強い。何があってもわれわれが生徒を守ります」と引き留めたという。バレエを志す日本人の留学への影響は尾を引きそうだ。(清水 嘉寛)


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