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追う!マイ・カナガワ
知りたい福島・東北の今(3)高台移転のその後は

社会 | 神奈川新聞 | 2022年3月7日(月) 10:10

 東日本大震災から11年を前に、神奈川新聞「追う! マイ・カナガワ」などオンデマンド調査報道(JOD)のパートナーシップに加盟する全国17地方紙が共同実施した読者アンケートでは、「津波後に高台移転した状況を知りたい」(横須賀市の45歳パート女性)といった質問が複数寄せられた。岩手日報社が現状を取材した。

山を削り造成した陸前高田市気仙町今泉地区の高台団地(手前)。中央の気仙川沿いはかさ上げしたが空き地が広がる=2022年2月25日(岩手日報社小型無人機から撮影)

 津波で甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市中心部は浸水域のかさ上げと高台移転でまちの再生を進めた。1年前に宅地の引き渡しが終わり、住宅新築もほぼ一段落した。津波災害への安全性は高まったが、町内会ができていない地区もあるなどコミュニティー再構築は途上だ。住民流出でかさ上げ地には多くの空き地が残り、将来への道のりは平たんではない。

 名勝・高田松原や「奇跡の一本松」を眼下に望む同市気仙町今泉地区の高台。3年前に新築された気仙小の周囲には真新しい戸建て住家が並ぶ。高台の下には、浸水域を最高で16メートル盛り土したかさ上げ地が広がる。走る車は少なく、周辺は空き地が目立つ。

 今泉地区は同市を南北に流れる気仙川の西岸。藩制時代は気仙地方の政治の中心地として栄え、醸造業など伝統産業が営まれてきた。住民同士の結び付きも強い土地だったが、津波で約600戸のうち592戸が被災した。

 対岸の高田町も大きな被害を受け、市は両地区で土地区画整理事業を導入。生活を続ける人たちの安全確保を最優先した。今泉の山を切り崩し、総延長約3キロの巨大ベルトコンベヤーで約500万立方メートル(東京ドーム約4個分)の土砂を高田町に運び、1年半かけ浸水域に盛った。切り崩した後の土地も含め両地区の計約300ヘクタールに計1464戸分の宅地を造成した。

 同市は津波で家屋のほぼ半数の約4千世帯が全半壊した。震災直前の人口約2万3千人のうち死亡・行方不明は1759人に上る。

 気仙川近くに住んでいた鈴木英俊さん(67)は同居する妻とその両親を津波で亡くした。4年前に今泉の高台に新居を構え今は1人で暮らす。「津波の心配がなく防災面では安心だ。当時も高い場所に家があれば3人を守れていたかもしれない」。安心感と後悔の念が複雑に交錯する。

 高田、今泉地区は造成規模が大きく整備は長期化した。時間を費やす間に住民が流出し、今泉地区に暮らすのは震災前の半数以下の約250世帯。無人区を除き6行政区が新たに設けられたが、うち三つはまだ町内会を発足できていない。

今泉地区コミュニティセンターで開かれた愛宕下町内会の設立総会。震災から10年以上たち、コミュニティー再構築へ一歩を踏み出した=2021年12月、陸前高田市気仙町

 気仙小周辺の約50戸で構成する愛宕下町内会は2021年12月に発足。かつての町内の住民が入り交じって転居し、地区外から来た人もいる。ゼロからのコミュニティーづくりで公民館建設や自主防災組織の立ち上げもこれから。村上諭会長(76)は「課題はこれからも出てくるだろうが、助け合っていくしかない」と前を向く。

 気仙町で約900年の歴史を誇り、数台の山車をぶつけ合う「けんか七夕」は、復活した。新型コロナウイルス禍で20、21年は中止となったが熱意ある住民らが存続へ汗を流す。

 今泉地区コミュニティ推進協議会の菊池満夫会長(69)は「住民の輪をつくり、機運を醸成してまとまりをつくり、今泉の歴史をつなげていかなければならない」と決意する。

次に備えるために

 東日本大震災発生から間もなく11年となり、被災者の生活再建や事業所再建、公共施設や橋・道路といったハード面の復旧はほぼ完了した。現在は「目に見えにくい課題」と向き合う段階に入り、高台移転に伴うコミュニティーの再構築や維持の問題もその一つだ。

 岩手県沿岸部は元来住民のつながりが強い地域だが、震災後のコミュニティー再構築には労力を費やした。中心となるべき人材が犠牲になったり、まちづくりの長期化が住民の流出を生じさせるなど現実は厳しかった。次の災害に備えるため、平時から膝を突き合わせて即応できる土台をつくっておきたい。

 高台移転で津波災害への安全性は高まったが、それが災害への慢心を招いては本末転倒だ。1日中高台にいるとは限らない。津波の際はどこでも高台避難する意識付けや、事前復興の取り組みも、人ごとにせず主体性を高めることに主眼を置いて進めたい。(陸前高田支局長・向川原成美)


 「#311jp」は、読者とつながる「オンデマンド調査報道(JOD)」パートナーシップの加盟社で実施。アンケートは多様な意見を聞き取るのが目的で、無作為抽出で民意を把握する世論調査とは異なる。「福島・東北」について「知りたい」ことを尋ね、福島民報、岩手日報、河北新報の3紙が「伝えたい」ことも交えた記事を配信し、本紙でも随時掲載する。今回の記事は岩手日報社がまとめた。


 神奈川新聞社は暮らしの疑問から地域の困り事、行政・企業の不正まで、無料通信アプリLINE(ライン)で読者から寄せられた取材リクエストに幅広く応える「追う! マイ・カナガワ」(略称・マイカナ)に取り組んでいます。

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