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追う!マイ・カナガワ
いざ避難 児童の頭には防災頭巾とヘルメット、どちらが最適?

社会 | 神奈川新聞 | 2021年9月1日(水) 12:41

 「川崎の小学校では防災頭巾を使用し、横浜ではヘルメットと防災頭巾を児童に両方持たせています。子どもは頭巾の方がかぶりやすいと思うのですが、ヘルメットも必要でしょうか?」。小学校で40年以上勤務する再任用教諭の男性(66)から「追う! マイ・カナガワ」取材班に疑問が寄せられた。9月1日の「防災の日」にちなみ、小学校の防災について調べた。


同じ県内でなぜ違うのか

 男性は、川崎市の小学校に長年勤め、横浜で指導した経験もあるベテランだ。

 川崎では各児童の家庭で防災頭巾を購入し、普段は教室の椅子に付けて座布団として使っていた。

 横浜で勤務した小学校では、教育委員会で購入したヘルメットと、家庭で購入した防災頭巾を併用。防災頭巾は座布団としての利用が主目的で、避難訓練ではヘルメットを使うよう指示していた。両市の対応の違いに疑問を抱き、マイカナに「同じ県内でもなぜ違うのか」と声を寄せた。

 男性は「狭い教室でヘルメットの収納場所を見つけるのは難しい」と言う。ケースに入れ、椅子の下にひもでつるして収納するが、ひもが劣化するとヘルメットが落ちてしまう。保護者に修理を依頼していたが、「教室での管理はとても大変だった」という。

 避難訓練では、1年生はケースから出してヘルメットを装着するのが難しく、複数の教諭らの助けが必要だった。いざ、校庭に避難してみると、ヘルメットではなく、装着しやすい防災頭巾をかぶった児童も多かったという。「本番の時にちゃんとできるのか…」と心配になった。

 男性は「地震の時は机の下に潜るので頭は守れる。教師の立場から言えば、管理がしやすくて低学年も装着しやすい防災頭巾がいいと思うのですが…」と打ち明ける。

 ヘルメットと防災頭巾、どちらが子どもたちの安全を守れるのか…。

 小学校の防災用具として昔から防災頭巾が使われているが、ヘルメットの方が身を守れるのでは? マイカナ取材班はそう感じたが、実際の学校現場では、使い勝手や保管場所などさまざまな課題もあるようだ。県内全33市町村の教育委員会にアンケートを実施し、専門家らにも話を聞いた。

「防災頭巾派」が多数

 アンケートを集計すると、県内33市町村のうち「防災頭巾」派は、川崎、相模原、横須賀など20市町村に上った。

小学校の防災用具は?(児童用)

 「かぶりやすい」「椅子など身近な場所に保管できる」「火災時に火の粉から守れる」などが主な理由だ。各家庭で購入し、材質は半数以上の12市町村が布で、アルミは1、布かアルミかを選択が7だった。

 一方、「防災ヘルメット」派は併用も含めて5市町にとどまる。横浜、茅ケ崎は東日本大震災を機に導入を決め、横浜は市教委が一括購入、茅ケ崎は保護者負担で学校ごとに購入している。防災頭巾を座布団として引き続き使用している学校も一部あるという。

県西部では「ヘルメット派」がじわり

 特徴的だったのは、県西部の町で火山活動や土砂災害への警戒からヘルメット導入が進んでいることだ。

 松田町は保護者の要望などを受け2013年度から町の費用で購入して全面導入。さらに箱根、山北町もヘルメットと防災頭巾を併用している。

 14年には御嶽山が噴火し、全国的にも火山地帯の防災意識が強まっている。箱根山の火山活動が15年以降活発化している箱根町では、噴火の危険を視野にヘルメット導入を決め、PTAが購入している。山北は大震災を機に、保護者負担で学校一括購入するようになったという。

 箱根町立仙石原小に、ヘルメットと防災頭巾の使い分けについて聞いてみると、「基本は7年ほど前から導入したヘルメットを使っている。冬の箱根は寒いので防災頭巾は防寒具として、座布団代わりにしている」とのことだった。

保管場所が導入の壁に

 「学校ごとに異なる」と回答したのは鎌倉や藤沢、小田原、南足柄など8市。「沿岸部など学校の立地条件が違うため」「各校の実態や方針があるため」などの理由だった。

 その中には「防護効果が高く、軽量かつコンパクトになったヘルメットに徐々に移行している」(逗子)との回答も。防災頭巾を使っている市でも、ヘルメットの防護効果の高さを認識している声は多く、秦野では保護者にヘルメット導入アンケートを行い、活用法を研究しているという。

 ヘルメット派が増えつつあることも分かったが、普段は座布団としても使える防災頭巾と比べ、「置き場所に困る」「椅子の下にネットでつるすと、掃除の時に椅子が運びにくい」などと、保管場所が導入の壁となっているようだ。

 また「ヘルメットは高価」とする意見もあったが、防災頭巾、ヘルメットとも、千円以下~5千円台と幅広い価格帯があるようだ。

 防災頭巾とヘルメット、どちらが望ましいのか─。国の見解を文部科学省防災教育係に尋ねると、「法規制もないので、国の指針は特にない。各学校や自治体に任せている」ということだった。

防災頭巾「座布団にしないで」

頭の発育に合わせて装着バンドの大きさを変えられる「防災キッズメット」(谷沢製作所提供)

 日本で初めて、子ども用の防災ヘルメットを開発した危機管理教育研究所(東京)の国崎信江さんは「子どもの頭を落下物から守るには、ヘルメット着用が必要不可欠」と言い切る。

 阪神大震災後、自身の子ども用にヘルメットを探したが、入手できず危機感が募ったという。産業用ヘルメットの老舗メーカー「谷沢製作所」(東京)に子ども用の製作を呼び掛け、頭の発育に合わせて装着バンドの大きさを変えられる「防災キッズメット」を開発。2006年に発売した。

 国崎さんは、戦時中の防空頭巾の名残と言われる防災頭巾について、「先進国で子どもたちに防災頭巾をかぶせているのは日本以外にないのでは」と首をかしげる。防火加工でない布頭巾は「火の粉が降りかかっても燃えているのが気付かないケースもある」と指摘し、「座布団にするとつぶれてしまうので、しっかり頭を守れない。なぜヘルメットが必要なのかを先生や保護者が理解することが一番大切です」と訴える。

 一方で、東日本大震災を機に、高性能の防災頭巾を開発した企業もある。制服のネクタイなどの企画製造・販売を行う「たまき」(横浜市中区)は震災直後、消防服にも使われる素材を用いた防災頭巾を開発。11年9月から販売し、同市内の私立中学・高校などで採用された。

 玉置晴美社長(56)が震災当時、防災頭巾をかぶった子どもたちを目にしたことがきっかけで、「震災では落下物だけでなく火災も怖かったので、耐熱性に優れたものを開発した」と経緯を話す。特殊素材のため生産数に限りがあるが、「学校からは『女子生徒の長い髪も火から守れる』という声もいただいている」とニーズを感じている。(蓮見朱加、塩山麻美)

「たまき」が開発した、消防服にも使われる素材を用いた防災頭巾
東日本大震災を機に、高機能防災頭巾を手にする玉置晴美社長=横浜市南区

取材班から

 アンケートでは全市町村が「教職員はヘルメットを使用している」と回答した。大人はヘルメットなのに、子どもは防災頭巾で良いのだろうか。首都直下地震や南海トラフ巨大地震への備えも視野に、子どもたちを守る最善策を一層議論していく必要がある。


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