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追う!マイ・カナガワ
トラックに優しくない?川崎臨海部(上)路駐の列、どうして

社会 | 神奈川新聞 | 2021年8月1日(日) 05:30

 「川崎市川崎区塩浜3丁目の道路で多くのトラックの路上駐車で車線がふさがれ、日常的に渋滞が発生している」と、近くの会社に勤務する40代の男性から「追う! マイ・カナガワ取材班」に情報が寄せられた。送られてきた写真から深刻さが伝わってくる。その思いに寄り添って取材を進めると、物流を支えるトラック業界がさまざまな問題を抱えていることが見えてきた。


エンジンかけたまま

路上駐車するトラックの列は、約870メートル離れた場所まで続いた=7月30日午前7時45分ごろ、川崎市川崎区塩浜3丁目(画像の一部を修整しています)

 現場は臨海部の川崎市川崎区夜光2丁目、塩浜3丁目の間を通る片側2車線の市道だ。近くには羽田空港のほか、東芝やJFEスチールなどの大規模工場が集まる浮島町や千鳥町、水江町、大型物流拠点が集積している東扇島がある。

 投稿を寄せた男性によると、夜間から翌朝までトラックがエンジンをかけたまま休憩しているという。「1車線はトラックでふさがり、バス停前や車庫入り口もふさいで渋滞している。警察が追い払ってもすぐに別のトラックが来る。いたちごっこ状態」

 男性に詳しい場所を確認して6月中旬の昼前に記者が現場に向かうと、横浜や相模だけでなく、春日部、大阪、神戸など各地のナンバーをつけた大型トラックがエンジンをかけた状態で路上に停車していた。

 車の列をたどって歩くと、会社や倉庫などが混在するエリアにコンビニもあり、駐車禁止区間の約870メートルの間にトラック、トレーラー、タンクローリーなど計47台を確認できた。コンビニの駐車場を出入りする車の視界は遮られるなど危険な状況だ。

 多くの車両はカーテンを閉めており、ハンドルに足を乗せて寝ている運転手の姿も。この場所に止める理由を尋ねると、40代男性ドライバーは運転席で昼食を頰張りながら「他に止められる場所がない。周辺の駐車場に大型車は駐車できないんだ」と答えた。エンジン音が響き、声はかき消されそうだ。

 「川崎いうとこは、トラックに優しくない」。寂しそうに語る和歌山県から来た60代の男性運転手に出会った。記者はこの男性にじっくり話を聞くことにした。

荷主の要求、弱い立場

トラックの路上駐車が続く現場の市道=7月7日午前11時25分ごろ、川崎市川崎区夜光2丁目(画像の一部を修整しています)

 和歌山県から来た男性運転手は、宅配便の荷物をぎっしり積んだ10トン車の運転席からこう訴えた。

 「夜走るので、到着して荷物を降ろすまでの待ち時間に仮眠しないと死んでしまう。これだけの車を止められる場所は(川崎では)路駐しかないんや」

 「トラックの駐車場を整備している県もあるわけ。よそから仕事で来るいうことは、その地に税金が落ちるいうことや。そういうことに向き合うんじゃなしに、ただ単に邪魔者扱いされ、行くところがない」

 “路駐スポット”の道路周辺には、大きな工場や倉庫が並ぶ。「トラックステーションや道の駅のようなものを、川崎にももっと造ってほしい。物流が止まると、普通の人間が困るわけですよ。ここらへんは物流や、工場で持っているような街やから」

 トラック運転手は荷主の要求に従い、路上駐車せざるを得ない弱い立場にいる構図が分かってきた。

 富山からトラックで鋼材を運んでいるという40代男性運転手にも、荷主の敷地内に止められないのか尋ねたが、「無理や。『出て行け』言われる。ここに止めるしかない」と疲れ切った表情で答えが返ってきた。

取り締まるも「いたちごっこ」

 投稿者の男性は、警察の取り締まりが効果的でないと指摘していた。その点はどうなっているのか。川崎臨港署に取材を申し込んで趣旨を伝えると、署員があらためて駐車中の運転手計7人に事情をヒアリングしてくれた。

 その結果は「近くの工場から出てきて、別の場所に行く前の休憩や時間調整」「大型車両を止める場所がない」などの意見が多かった。午前10時半ごろにトラックを駐車していた男性は「朝早く山形県を出発し、午後1時ごろに川崎に荷物を降ろす予定で、時間待ち」と説明したという。

 署によると、この場所で過去3年事故などの発生はないが、「駐車トラックを何とかできないか」との苦情が寄せられたこともあり、署員が路駐を見つけた際は窓ガラスをたたいて「移動してください」と呼び掛け、車を動かすようにしているという。

 ただ、警察が去れば、大型車はすぐに戻ってくる。署の担当者は「運転手は荷主に対しても弱い立場なので、こうなってしまう。車を止めにくくすることも解決にはならない。『いたちごっこ』になる」と悩ましい状況を打ち明けた。

 では、どうすればいいのか。担当者は「敷地面積が広い事業所では専用駐車場を設けてもらえるかもしれない」と可能性を指摘しつつ、「市も巻き込んで対策を考えようとはしている。できることがないか今後、検討していく」とトラック業界だけでなく、自治体などと一緒に解決方法を模索したい意向を示した。(井口 孝夫)

トラックの路上駐車で1車線が埋まり、車の流れは遅くなっていた=6月16日午前11時40分ごろ、川崎市川崎区夜光2丁目(画像の一部を修整しています)
路上駐車するトラックの列は、約870メートル離れた場所まで続いた=6月16日午前11時55分ごろ、川崎市川崎区塩浜3丁目周辺(画像の一部を修整しています)

走るより「止める」難しい

 トラックが路上駐車する理由は何か。元トラック運転手で、フリーライターの橋本愛喜さんに聞いた。 

橋本愛喜さん(本人提供)

 アイドリング状態で止まる理由は、エンジンを切ると冷蔵・冷凍機能を失う車両がある。切ると荷台の商品が駄目になるし、暑いのでクーラーを使いたい人もいる。

 もう一つは、故障を防ぐ「スス焼き」のため。エンジンをかけたままにしないと、排ガスの有害物質を取り除くフィルターが詰まり、車両が故障してしまう。

 荷主からは「半径3キロ以内にいてほしいけど、近所迷惑になるので近くで止めるな」と注文される。早着も延着も駄目。今、トラックは完全な「荷主第一主義」だ。荷主へのサービスを拒否すれば「代わりはいくらでもいる」と言われる。

 1990年の物流2法の施行で始まった「規制緩和」で運送業者は6万3千社ほどに増え、トラック業界は過剰な値下げ競争を強いられた。7次下請けが荷主の仕事を受けることもある。断れば1次請けの運送業者のメンツがつぶれ、次はない。絶対服従の構図だ。

 トラック車内には寝台があり、運転手も休みたい。でも疲れているから、寝台を使うと絶対寝過ごす。だからハンドルに足を乗せて寝る。30分も寝るとお尻がしびれて痛みを感じ、タイマーみたい。「こんなところに車止めて、あんな格好をして」と、近くに住む人は相当嫌な思いをされていると思う。そもそもトラックにベッドがあることがおかしい。運転手が泊まれる施設を造るべきなのに、何でトラックは車内で寝て当たり前なのか。誰にも注意されず、ぐっすり眠りたい。

 運転手には「4時間走ったら30分の休憩」や、「翌日勤務までの8時間以上の休息期間」のルールがある。これも守り、路駐もしてはいけない。でも止められる場所がない。トラックは走らせるより「止める」方が本当に難しい。(構成・井口 孝夫)

 はしもと・あいき トラック運転手として10年間勤務。現在はフリーライターとして、トラック業界やブルーカラーの労働問題などを中心に執筆。運転手の労働環境や日本の物流業界事情を取り上げた著書「トラックドライバーにも言わせて」(新潮新書)は大きな反響を呼んだ。大阪府出身。


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