「従軍慰安婦」という言葉は軍に強制連行されたという「誤解を招く」恐れがあるため、単に「慰安婦」とすることが適切とする閣議決定を、菅政権は教科書に反映させる姿勢を見せる。日本軍「慰安婦」問題や教科書問題に取り組む市民団体は、その狙いを「軍と『慰安婦』制度の切り離しによる河野談話の空文化」と見て、こうした歴史認識の広がりに警戒感を強める。政府による教科書表現の強制は「教育への政治介入」であり、憲法に抵触しているとの指摘も上がっている。

「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解が存在する場合は、それに基づいて記述されていること、これが基準の一つになっています」。5月10日の衆院予算委員会で菅義偉首相は、日本維新の会の藤田文武氏の質問にこう答弁した。
閣議決定を受けた教科書への対応を質問した藤田氏に対し、首相は「従軍慰安婦」という表現を教科書から排除することについて、「文部科学省が適切に対応すると承知している」と説明。萩生田光一文科相は12日の衆院文科委で「当該政府の統一的な見解を踏まえた検定を行う。今後そういった表現(従軍慰安婦)は不適切ということになる」と明言した。
「建前かなぐり捨て」
〈閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること〉
2014年に改正された教科書の検定基準にはこう記されている。ただ、当時から政治介入への懸念はささやかれていた。基準改定に向けた13年12月20日の教科用図書検定調査審議会では、委員がこのように発言している。
「政権が代わったからといって、あるいは一部の勢力の主唱といいましょうか、それによって基準を変えるべきではない」