神奈川から南西へ約千キロ、東シナ海に位置する鹿児島・馬毛島で軍事基地化が進む。自衛隊基地を新たに建設し、かつて米軍厚木基地で行われていた空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)を移転させる計画だ。
神奈川ゆかりの夫妻がドキュメンタリー映画「島を守る」を手掛けており、国策に翻弄(ほんろう)される地元の実態を伝え、基地化に揺れる人々の思いを込める。知ってほしい、そしてわが事と考えてほしい─。
丘から見下ろす横須賀の港に、空母がたたずんでいた。街の風景に溶け込み、ビルと見まがう巨体だった。厚木基地に近接する公園では子どもたちが駆け回り、その上空を自衛隊のヘリが飛び交っていた。日常の営みのすぐ隣に基地がある光景は異様だった。
今春、川村貴志さん(51)と未菜さん(34)が神奈川の基地を訪ね歩いた。馬毛島から南西に約40キロ、基地化の「地元」に位置付けられる屋久島に暮らす。
未菜さんは寒川町出身。「基地県」で生まれ育ったが、その存在を意識したことはなかった。当事者になって初めて自覚した基地問題。自身の無知を恥じながら故郷での撮影を重ねた。
「基地のある風景ではなく、その風景を見つめる人たちの心の内を撮る。そんな時間でした」
とりわけ思い起こすのは出会った人々の優しさだ。
〈ここで(空母やFCLPを)止められなくて、ごめんね。(基地が)馬毛島に来てしまうのは、きっと怖いでしょう。ごめんね〉
自身がそうであったように、多くの人は無関心だ。政府は基地のたらい回しを躊躇(ちゅうちょ)しない。貴志さんと2人、寄せられた謝罪の言葉に思いを巡らせる。
「これまで踏ん張ってくれたからこそ、(神奈川も馬毛島も)この程度の基地化でとどまっている。むしろ感謝です。本当に謝るべきは、あの方々ではないのです」
世界遺産の森に
「屋久島でも雪が降るんです。夕日に染まる冠雪の永田岳。ため息が漏れる絶景です。島の人たちからは取れたての野菜や魚を頂いたりもします」