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追う!マイ・カナガワ
茅ケ崎に謎のバス停「登象」 その名の由来は?諸説紛々

社会 | 神奈川新聞 | 2021年2月15日(月) 12:06

 茅ケ崎市内に一風変わったバス停がある。その名も「登象(のぼりぞう)」。ゾウが登るなんて想像力をかき立てるネーミングだが、その由来を調べてほしいとの依頼が「追う! マイ・カナガワ」取材班に寄せられた。江戸中期に長崎から江戸へゾウが歩いたという故事は知っているが、現地は東海道から離れた住宅街のど真ん中。ダンボのように耳を広げると、いろんな説が聞こえてきて…。

バス会社も「資料が見当たらない」

登象バス停

 茅ケ崎市矢畑。神奈中バスの停留所周辺には大型ほ乳類の気配はおろか、登り坂すら見当たらない。

 「どのような経緯で命名されたのか調査したが、資料が見当たらない」と神奈川中央交通の担当者。ただ、「登象」は現在も矢畑と、隣接する浜之郷に小字として存在する。停留所は地名から採られたと推測できるが、ここからが本題だ。いつごろ、なぜ象が登場したのだろう─。

東海道説「歩いたゾウを見物」

 「よく聞かれる地名なんです」とは茅ケ崎市史に詳しい「茅ケ崎ゆかりの人物館」の平山孝通学芸員。地元の小学生が夏休みの宿題として調べに来るというが、「江戸時代にゾウがこの辺りを通った記録がある。東海道を歩くゾウを見物するため、高台や木に登った場所ということくらいしか結びつかない」。

 古くは室町時代からゾウは“来日”していたという。時の為政者に献上するためだが、中でも有名なのが1729(享保14)年。8代将軍徳川吉宗の所望で交趾(こうし)(現ベトナム)から渡来した雄が、長崎から江戸まで旅した記録が残されている。

 県内では小田原、平塚、保土ケ谷など東海道の宿場町を巡ったとされ、茅ケ崎市内の経路が分かる史料は見つかっていない。

 そもそもいつから「登象」はあるのか。同市文化生涯学習課によると、土地台帳など江戸時代の文書には「のほりそ(さ)う」と記載されているという。

 ただ、さらに詳しく調べてもらうと、新事実が分かった。市に残る天正20(1592)年の検地帳の写し3点のうち2点に「のほりそう」が地名として確認できたという。「いつごろから『登象』になったのかは特定が難しいが、天正年間には既に地名があったことがわかる」と同課の塘瑞希さん。つまり、象が訪れた江戸以前から存在していたということなのか…。

鎌倉街道説「こちらの方が騒ぎにならない」

小川さんの書道教室のマスコットは愛らしいゾウだ=茅ケ崎市矢畑

 遠のくゾウの足音。「登象公園」の滑り台が長い鼻を垂らしたゾウの姿に見える─。そう言ってお茶を濁そうかと考え始めた時、新たな説に出合った。

 バス停近くに燦然(さんぜん)と輝く「登象ビル」の文字。オーナーで、書道教室を開く小川一雄さん(72)は幼い頃、土地の古老から聞かされた話があると教えてくれた。

 バスが走る「鶴嶺通り」はかつての鎌倉街道とされ、ゾウが江戸に“上る”際に矢畑と浜之郷の境界付近に本陣が置かれたことから、登象の地名が付された─と聞いたというのだ。

 「東海道は人通りがあり、暴れたら危ない。こちらの旧道の方が騒ぎにならないと考えたのではないか」

全ては推測…でも膨らむ想像

長崎から江戸へ向かうゾウを描いた「享保十四年渡来象之図」(国立国会図書館デジタルコレクションから)

 市によると、延享年間(1744~48年)には漢字表記されていた可能性もある。ゾウ渡来の約20年後となれば、巨象に魅入られた人が「象」の漢字を当てたとも考えられる。

 だが、全ては推測の域を出ない。いや、だからこそ想像は膨らむ。

 「ゾウって大きくて、優しげで、嫌いな人はまずいないでしょう。愛着がある地名だし、大切にしていきたい」と小川さん。旅先ではついついゾウが描かれたネクタイを買い集めてしまうと笑う。

 人物館の平山さんは、自身のゾウ由来の“仮説”立証ならず頭をかきながらこうも言う。「何で象なんだろうって、子どもたちが考えるきっかけになれば」

 時刻は平日たそがれ時。かつてゾウの巨体で揺れた、かもしれない街道には、夕日を背にした子どもたちの陽気な声が響いていた。(須藤 望夢)

「登象公園」の遊具には残念ながらゾウはいない=茅ケ崎市矢畑
「登象公園」の遊具。なんとなくゾウの面影が=茅ケ崎市矢畑

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