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警鐘 クルーズ船集団感染1年(1)
死者13人、感染者712人 巨大な密室で何があったのか

社会 | 神奈川新聞 | 2021年2月4日(木) 05:00

接岸中のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」と検疫や感染者の搬送などに当たる車両=昨年2月6日、横浜市鶴見区の大黒ふ頭

 洋上に浮かぶ巨大な密室で何があったのか─。新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の横浜帰港から、3日で1年が経過した。世界を揺るがした豪華客船の惨事は死者13人、感染者712人に及んだが、国や自治体による検証はなされぬままだ。「ウイルスの恐ろしさを軽視してはならない」。足元で風化が進む一方、教訓を探る関係者は警鐘を鳴らす。

 「感染爆発を起こした船内と現在の国内の状況が重なる」。クルーズ船の乗客で元大学教授の千田忠さん(77)=札幌市=は、未知のウイルスの恐怖に直面した2週間を振り返る。

 3700人超の乗客乗員を船内に隔離し、1カ月半にわたり横浜港・大黒ふ頭に接岸していたダイヤモンド・プリンセス。日を追うごとに陽性者が増える一方、船内では正確な状況が把握できぬまま時が過ぎていた。

公助引き出すための共助

 「情報不足による不安」から、千田さんは「船内隔離生活者支援緊急ネットワーク」を創設。「危機を乗り越えるには横のつながりが必要」との思いで乗客の要望を取りまとめ、厚生労働省からも「窓口」として頼られた。メンバーは約150人に膨らみ、非常時に「公助を引き出すための共助」として機能。下船後も独自の活動を続けた。

 しかし、文献や資料を調べる中で実感したのは「検証不足」だ。国土交通省の報告書はA4判の用紙で10枚。対応の中心を担った厚労省現地対策本部の報告書は6枚にとどまった。にもかかわらず、同省は「当時のチームも解散し、検証した書類の有無さえ分からない」「正直、振り返る暇はない。あの件はもう終わったことだ」と説明するだけだった。

 乗客の中にも「思い出すだけでつらい」と深い傷が残るケースが少なくないが、今も連絡を取り合う約10人で活動を続ける。長野県に住む小柳剛さん(73)も「終わったことではない」と語る一人で、昨年5月に船内での体験談をまとめた書籍を出版した。

 千田さんと船内で顔を合わせることはなかったが、今年1月下旬に初めて連絡を取り合い、検証の重要さと教訓を残す必要性で一致。点と点がつながり、遺族や感染者の補償といった問題点も含め国や自治体に検証を求めていく方針を共有した。

 2人が検証を進める上で焦点となる「PCR検査」「濃厚接触者」「オーバーシュート」…。当時なじみのなかった言葉は今、国内外の共通認識となった。クルーズ船対応に奔走した政府、自治体や医療機関のほか対岸から見守った市民にとって“横浜港の衝撃”は、後に脅威を知るコロナ禍の序章にすぎなかった。(清水 嘉寛)

 
 

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