米国第一主義を掲げる言動が白人至上主義者らを先鋭化させ、人々の暴力や人種間の分断があらわになったトランプ政権に対し、バイデン次期政権は融和を掲げている。人種差別とヘイトクライム(憎悪犯罪)報道の在り方について、レイチェル・グリックハウス氏らの取り組みを通じて考えるとともに、法政大の明戸隆浩特任研究員(44)に日本の状況について聞いた。
米ジャーナリスト・グリックハウス氏に聞く

2017年8月、米南部バージニア州シャーロッツビルにおびただしい数のナチス旗や星条旗が掲げられていた。
非白人移民に排外的な政策を取るトランプ大統領を正義とし「自分たちの居場所は渡さない」と叫ぶ白人至上主義者らが隊列をつくり、これに抗議する人々との間で衝突が起きた。その異様な光景を伝えた「ドキュメンティング・ヘイト」は、優れた映像作品に贈られる19年のエミー賞に選出され全米で話題を呼んだ。
この作品の制作を後押ししたのが、「ドキュメンティング・ヘイト」という調査報道プロジェクトだ。
新聞離れが進む米国では新聞社倒産が相次ぎ、ジャーナリズム存続が危機に瀕(ひん)している。こうした状況下、寄付金でNPOとして運営されるオンラインメディア「プロパブリカ」は新しい報道の在り方として注目を集める。全米のメディアと連携する調査報道のスタイルが、オンラインメディアとして初めて10年にピュリツァー賞も受賞している。
そして、プロパブリカが17~19年に主導した調査報道「ドキュメンティング・ヘイト」でも全米の約180の報道機関や大学、ジャーナリストらと連携し、トランプ政権下のヘイトクライムの実態を明らかにした。
口つぐむマイノリティー
「16年の大統領選挙後、1カ月ほどで米国のヘイトクライムが増加したという報告がありましたが、その数を十分に把握できていなかったことが、このプロジェクトの出発点でした」。ドキュメンティング・ヘイトの統括を務めたグリックハウス氏は言う。
見えぬヘイトあぶり出す 米国の新しい報道とは
レイチェル・グリックハウス氏 [写真番号:483810]
米南部バージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義に対する抗議のプラカードをつかむ男性(左)=2017年8月12日(ロイター=共同) [写真番号:483806]