コロナ禍にさらされた2020年が暮れようとしている。経験したことのない1年を追った記者たちの胸に刻まれた思い、歴史に刻むべき出来事とは─。今、改めて立ち返り、この先を考える。
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死者13人、感染者700人超に上った集団感染は、なぜ起きたのか─。横浜港に入港した「ダイヤモンド・プリンセス」で繰り広げられた新型コロナウイルス感染症を巡る攻防。50日余りに及ぶ取材で浮かび上がったのは、地域経済活性化に期待し国を挙げて外国クルーズ船の誘致を進めてきた一方、置き去りにされてきた船内外の危機管理対策だ。「海に浮かぶ豪華ホテル」の“悪夢”から得られた教訓をどう生かすか。運航再開の動きが出る中で、多くの課題は積み残されたままだ。
「午前7時半ごろから下船いただき、海上保安庁の協力も得て神奈川県内の医療機関へ搬送している」
2月5日午前9時前、加藤勝信厚生労働相(当時)の会見で10人の感染者が下船する方針が示された。2日前から横浜港沖に停泊していたダイヤモンド・プリンセス。約3800人に上る乗客乗員は同19日までの14日間、検疫が行われる船内にとどまるという当初の発表に不安が頭をよぎった。
感染者が増える恐れがある。シニア層が多い乗客を下船させずに大丈夫か…。
横浜市は同5日、食料や物資補給などを理由に着岸させたいと船会社から要請を受けたとして、横浜港・大黒ふ頭の岸壁の利用を許可。翌6日朝に大黒ふ頭客船ターミナルに着岸し、3月25日に離岸するまで、真水精製などのため2回沖合に出た以外は係留を続けて船内への物資補給や感染者らの救急搬送を繰り返した。
異例ずくめの展開
検疫法に基づき3千人規模の乗客らをクルーズ船に「船内隔離」(船客停留)し、自衛隊や厚労省をはじめとした医療・検疫チームが船内で活動するという異例ずくめの展開となった。