歴史的な災禍と因縁の深い古木が、その歩みを続けられるかどうかの瀬戸際にある。
房総半島南部の千葉県館山市。JR館山駅から南東へ約400メートルの住宅地の一角で、古木は今、所有者の敷地に静かに横たわっている。
今年3月半ば、市から天然記念物の指定を解除された「六軒町のサイカチの木」だ。
市教育委員会によると、樹高7・8メートル、幹回りは3・9メートル。車両の往来を妨げるかのように十字路付近の路地にせり出した姿に特徴があり、地域のシンボル的な存在だったが、昨年9月、房総半島の各地に記録的な暴風被害をもたらした台風15号で根元から倒れた。
保存に関わってきた地元関係者は惜しむ。「とても残念な状況だが、周囲の建物を壊すことはなかった。誰にも迷惑を掛けずに倒れた、と言えるのではないか」
サイカチの木が天然記念物に指定されたのは、2014年2月。天然記念物としてはわずか6年余りと“短命”だった。しかし、300年以上前から伝えられてきたこの木の逸話には、なおも大きな関心が寄せられている。
津波から逃れて
地元の「北条村史」は別の文献を引用しつつ、こう記している。
未曽有に学ぶ(下)記憶遺産 古木、台風耐えられず
津波から人々を守ったと伝えられる千葉県館山市のサイカチの木。道路部分にはみ出すように立っていた=2013年12月 [写真番号:333839]
昨秋の台風で倒れ、現在は往時の姿が見られなくなっている=20年8月 [写真番号:333840]
サイカチの木は倒れた後も新芽が出るなどしており、記憶継承の道が模索されている [写真番号:333841]