学生たちが集う平塚市青少年会館(同市浅間町)の1階。周辺に並ぶ図書館や博物館の利用者からも、オアシスとして親しまれてきた軽食堂「たんぽぽ」が3月末、半世紀近い歴史に幕を下ろす。最盛期には1日に150人ほどが訪れ、定番のホットドッグなどを頬張りながら、会話を弾ませた。店主の“おばちゃん”は「人との交流があったから店を続けることができた」と多くのファンに感謝を込める。
家庭用のガスこんろや冷蔵庫、古びた換気扇…。46年間使い続けた小銭入れは、レジ代わりだ。毎週月曜の定休日と夫の葬儀、台風接近日以外は休まずに営業を続け、気付けば46年が過ぎた。「体も疲れてきたしちょうどいいかな…ここまでよく頑張ったなぁと」。店主の菊池聰子さん(77)が打ち明ける。
最盛期の土・日曜には大勢の学生たちが店外にも列を作った。学生時代に通った子たちが、「子どもができました」「これがカミさんです」と家族連れで再訪してくれることが、何よりうれしかったと菊池さん。「人と接する、つながっている実感があった」
創業は1971年。県職員として13年目を迎えたころ、青少年会館に軽食堂出店の話を聞きつけ、一念発起。独学のオリジナルレシピで、軽食から定食まで豊富なメニューを用意した。
人気だったのはホットドッグ。軽めに焼いたパンに薄切りキュウリと千切りキャベツで彩りと栄養を添え、当時は赤いウインナーソーセージを挟んだ。「おいしいものを安く食べさせたかった」(菊池さん)。利用客の年齢層が上がった近年は料理を薄味にするなど、細かい配慮もちりばめた。
近くにコンビニや弁当店が出店するなど昼食が多様化し、今の利用者は1日15人ほどに。会館を訪れていた今井有真さん(16)=同市=は「幼い頃に食べたジャムトーストが思い出。気軽に立ち寄って勉強して、疲れた時に癒やしてもらった。なくなるのは寂しいですね」と話した。
閉店まで1カ月足らず。「これまで通り、昔からの味を変わりなく提供していきたい」と菊池さん。歴史を紡いだ懐かしい味とともに、「おばちゃん」と親しまれた愛嬌(あいきょう)と元気な声を厨房(ちゅうぼう)から届けるつもりだ。