金沢八景駅からすぐ近くにある平潟湾。遊歩道もあって週末には釣り人でにぎわい、のどかな雰囲気にホッとできる。この平潟湾を望むマンションの1階に4年ほど前にオープンした「フーシャ」。無添加パンへのこだわりがポリシーだ。
パンを焼くのは、ご主人の七野秀美(しちのひでみ)さん。明るい笑顔で販売を担当するのは妻美佳さんだ。以前はそれぞれ別の仕事をしていたが、5年前の震災をきっかけに「家族一緒に同じ場所で仕事をしたい」と考えるようになったという。「商売をするなら楽しくて、やりがいを感じられることをやりたいという思いがありました。そこに家族が皆、パンが好きという気持ちが重なったんです」と話す美佳さん。北海道産の小麦や天然酵母を使った無添加生地で、安心安全をきちんとアピールできるパンの店を始めた。
金沢区は、横浜市で最も高齢者が多い区ということもあり「ふんわりした食べやすいパンを心掛けています」と秀美さん。天然酵母パン(プレーン125円、ドライいちじく入り260円)も、皮はパリッ、中はふんわり。香りがよく、軽やかだが味わいあるのはやはり天然酵母の風味がうまく引き出されているからだろう。
食パン、おやきなどどれも人気だが、一番よく売れるのは、メロンパンだとか。「外はクッキー生地でカリッ、中はふわふわのよくあるタイプなんですけど、皆さん、ここのはおいしいと言ってくださって。お土産にと、何個も買っていかれる方もいます」と、何度もこまめに焼いている。見た目は確かに普通のメロンパンなのだが、食べると生地がきめ細かく、カリカリ感とふわふわ感のバランスが絶妙。口溶けも滑らかで優しい余韻が後を引き、忘れられない印象を心に残す。やはり人柄が表れているのだろうか…。
カレーパンの軽やかさも特筆すべきだ。揚げるのではなく、「できるだけヘルシーに」とオリーブオイルをかけて焼いている。また、塩バターパンも、すぐに売り切れてしまう人気商品。無塩バターを、卵を使わない白い生地で包み焼いているのだが、焼きたてに遭遇できたらラッキー。上からのぞくとバターがまだグツグツと踊っているのが見えるのだから。
店舗は以前、喫茶店だったという。長いソファはその時の名残で、お年寄りがひと息ついておしゃべりをしていくこともしばしば。優しい味のパンと美佳さんの明るい接客が金沢八景の風景に溶け込み、立ち寄ればきっと幸せな気分になれる。
文=藤田実子(ふじた・みこ)、フードジャーナリスト
掲載=2016年7月3日、神奈川新聞
パンのみせ フーシャ
横浜市金沢区瀬戸5-2
電話045(517)1177
営10:00~18:00(売り切れ次第閉店)/日曜・月曜休み
京浜急行線金沢八景駅から徒歩3分、シーサイドライン金沢八景駅から徒歩1分、平潟湾沿い