店内ではインコが鳴き、店頭では食用の卵が売られている。小鳥と卵って確かに近いけれど、売り物としてはほぼ真逆ではないか。
JR川崎駅東口から少し歩いた、たちばな通商店街にある丸豊商店。「元は養鶏用のエサを売っていた。昔は物々交換も多くて、その流れで卵も売るようになったのよ」。鶏でも卵が先でもなく、鶏用のエサが先でした。2代目の藤村稔さん(63)によると、同じようにヒヨコを扱うようになり、その流れで小鳥も売るようになったらしい。
先代が商いを始めたのは戦後すぐの昭和21(1946)年。「今の市役所の近くにあった市場でやったみたいで」。当時は川崎の沿岸部に養鶏場がまとまっていた。鶏を飼う家庭も多かった。養鶏場は昭和30年ごろに千葉の習志野に移ってしまった。時代に合わせ、扱うものを変えていった。
「昔は小鳥もすごく売れた。今はあまり売れないけど。エサも犬猫が中心ですね」。それでも奥では赤、青、黄のインコがピーチクパーチク。記者の家も飼っていたなあ。懐かしい。
現在の売れ筋は卵だ。話を聞いている間にも、1パック430円のものが次々はけていく。「少し高いけど、食べれば分かる。こういうので差別化しないとね」。商売70年で培った関係性で、相模原から超人気の卵が送られてくる。
その昔。居酒屋が多い店前の通りは汚かった。「バブルの頃なんてみんな金があって深酒するからケンカも多かったし、ごみやらゲロやらもね」。住みたいなんて思わなかった。
今も通りは元気だが、古い店が次々とチェーン店への間貸しになっていくのがさみしい。「うちみたいな個店が頑張らないと、どこにでもある商店街になっちゃうから」。通りの商店街振興組合の理事長も務める。いやはや、店に歴史あり、人に思いあり。
2013年春まで横浜を疾走していた「自転車記者」が今度は川崎を走り回ります。佐藤将人と塩山麻美が担当します。歴史ある店、面白い人、変わった人、街の不思議…。何でも結構ですので情報提供、大歓迎。連絡先を明記の上、ファクス044(211)0555まで。