本のジャケットや表紙などをデザインする装丁家として2千冊以上を手掛けてきた桂川潤さん(58)がこのほど、横浜市西区の出版社「春風社」で講演・座談会を行った。本が誕生するまでの歴史や、装丁家という職業が生まれた経緯、その魅力などを話した。
装丁は本のジャケット、表紙、本扉、帯のデザインなどを決める。タイトルの文体からジャケットの構図、色づかい、さらには材質まで。書籍に顔や姿を与える仕事を、桂川さんは「テキスト(文章のまとまり)を書物、すなわち物にすること」と説明する。
一方、「装丁という職能は世間にあまり認知されていない」とも。プロが生まれたのは近年といい、「かつては編集者が装丁まで行うのが普通だった。書物の量産化、商品化が進み編集者から余裕がなくなった」。その中で装丁にも広告デザイン的なセンスが求められるようになり、編集作業から独立した装丁家が生まれたという。
講演を主催した春風社の三浦衛社長も「設立17年目を迎えたが当初はプロに頼むお金もなく、自分で装丁までやっていた」と数冊を披露。桂川さんは「その本が生まれる過程や作家の思いを知っている編集者が手掛ける装丁は家庭料理のようなもので、その家にとって最高の味になる場合も多い。一方でわれわれはプロの料理家。与えられた材料で最高のものを提供するのが仕事」と解説した。
特に2010年以降、電子書籍の波に押され紙の本はなくなるのではと何度も問われたという。「皮肉にも電子ブックの登場が『物である本』の魅力をクローズアップしてくれた面がある。最近も面白い本や書店がたくさんできている。ぜひ本を手に取り、どんな思いで装丁されたかを想像してほしい」と話した。