簡易宿泊所街の寿地区(横浜市中区)で、身寄りのない高齢者らを支えてきた「ポーラのクリニック」(同区)院長の山中修さん(61)が第4回日本医師会赤ひげ大賞を受賞した。同地区のホームレスを支援するNPO法人「さなぎ達」の理事長も務め、地域に深く関わりながら同地区の孤独死減少に貢献した。「医療とNPO、両方の活動を評価してもらえたのではないか」と充実感を漂わせる。
山中さんは、国際親善総合病院(同市泉区)循環器内科部長だった1999年に、毛布を届ける慈善活動で同地区に関わり始め、仲間たちと「さなぎ達」を立ち上げた。
当時は地区で3日に1人が孤独死し、生活保護受給者に対する薬の大量処方など医療体制にも疑問を抱いていた。住民の生活の質向上を目指して、2004年に開設したのが同クリニックだ。
現在、外来患者は1日50~60人、週2回は寝たきりの住民の往診にも向かう。訪問介護をはじめ介護サービス業も多く参入し、地域での見守りとみとりが浸透した結果、孤独死は激減した。
「寿地区は時代を先取りしている」と言う。港湾労働者や日雇い労働者の街として、高度経済成長の好影響もいち早く受けたが、バブル崩壊などの悪影響もすぐさま直撃し、住民の高齢化も早かった。
実際、現在は「日雇い労働者の街」ではなく「高齢者と福祉の街」の様相が強い。「さなぎ達」によると14年度の同地区の高齢化率は51・0%に上り、全国平均(26・0%)の約2倍。介護を必要とする人が増える後期高齢者も14・0%とやはり全国平均(12・5%)を上回る。しかも住民の多くは男性単身者だ。
約120軒の簡宿に約6300人が暮らす。「さなぎ達」はその一人一人と信頼関係を築いてきた。山中さんは「昔ながらの長屋のような簡易宿泊所だったおかげで、地域住民や医療・介護担当者が緩やかに介入でき、家族のいない人々を地域で見守り、みとることができた」と振り返る。その経験から「個人情報保護を重んじる現代社会の風潮は、今後増えるであろう単身高齢者の見守りやみとりのネックになるだろう」とも指摘する。
寿地区には近年、新規転入者や障害者が増えてきた。時代の変化に合わせて地域も変わる。しかし「寿地区のかかりつけ医という立ち位置で、今後も見守り続けることが私の務め」と思いを新たにしている。