毎年10月下旬に発売される時刻表を楽しみにしてきた。年末年始の臨時列車が載るからだ。夏祭りや花火大会に合わせた行楽列車が目立つ夏の号とは雰囲気がだいぶ異なり「12月29、30日運転」と注記のある列車がこれでもか、というほど誌面に詰まっている。みんな、一斉に古里を目指すのだ。1年が終わるとの感慨が沸いてくる。
帰省列車に乗らねばならぬほど遠くに故郷のあるわけでない自分にとっては、年末の里帰りとはどんな気持ちだろうと思う。実際、そういう列車に乗って東北の方へ行ってみたこともある。何ともいえない穏やかな空気に満ちていたように記憶している。無用の客が割り込んだのは申し訳なかったが。
神田神保町の大型書店はCDの「フライングゲット」よろしく発売日の数日前に時刻表を早売りしていて、学生時分に通った。まず開くのは東北方面の欄。新幹線があっても、年末ばかりは「八甲田」「津軽」「ゆうづる」「おが」などの夜行列車が季節外れの桜のように咲きそろった。大阪を夜9時ごろ出て、翌日昼過ぎに青森に着く寝台急行「あおもり」は憧れだった。
今は時刻表を待つまでもなくJR各社がホームページに増発列車の詳細を載せるし、夜行列車も減った。心弾ませて神保町へ駆けることもない。(さ)