2003年に閉鎖した住友重機械工業旧浦賀工場(通称浦賀ドック)を地域の貴重な産業遺産として残そうと、横須賀・浦賀地区の住民らがボランティアとして携わる施設活用イベントが50回を重ねた。同社は昨年の秋、国の史跡指定申請を前向きに検討する意向を示しており、十数年来の地元の熱意が実を結ぼうとしている。
「昔は工場内のあちこちにレールが敷かれ、荷物を運ぶ小さな蒸気機関車が走っていた」「駆け出しのころは皆、伝馬船を覚えさせられて、(約2キロ離れた)川間工場から材料を載せて運ぶのが仕事だった」
16年12月10日のイベントには、県内外から約100人が参加。戦後復興期に船舶修理を担当した岡田順治さん(82)=横須賀市浦賀=ら当時の従業員が講師を務め、モノクロ写真や工具を披露しながら工場の歴史を紹介した。参加者はその後、全長180メートル、幅20メートル、深さ10メートルのれんが積みドックを見学した。
浦賀ドックは1899(明治32)年建造。旧海軍の艦船や帆船、青函連絡船などを送り出し、長く造船の街・浦賀の産業の中心を担った。同社は一昨年、一部の工場解体に着手したが、歴史的価値の高いドライドックや武器工場、機関工場などは残されたままだ。
市や同社、地元住民でつくる実行委員会は閉鎖直後の2003年から、見学会や講演、子ども向けイベントを開きながら、参加者と一緒に今後の活用法を考える取り組みを継続してきた。
昨年の秋には吉田雄人市長が国の史跡指定を目指すよう提案。別川俊介社長が「社内で前向きに検討したい」と応じたことから17年度以降の動向が注目され、地元では保存への期待感が高まる。岡田さんは「できれば観光客の誘致に貢献するような形で残してもらえれば」と願う。