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農業スマート化 情報通信技術で生産量・品質安定

話題 | 神奈川新聞 | 2015年8月19日(水) 03:00

環境が制御されたハウス内で栽培中のトマトを見る井出さん=井出トマト農園
環境が制御されたハウス内で栽培中のトマトを見る井出さん=井出トマト農園

 県は本年度、ICT(情報通信技術)などで生産効率を高める「スマート農業」を推進するため、農業技術センター(平塚市)に温室2棟を新設し試験栽培を始める。神奈川の特性を踏まえ、小規模な温室で収穫を増やせる農業モデルを開発し、施設栽培農家に普及したい考えだ。

 スマート農業は、ICTやロボット技術と経験に基づく従来技術を連携させた農業。農業者が減少する中、政府も競争力のある次世代農業を広げる切り札として推進している。

 県が新設する温室は約160平方メートルの2棟。温度や湿度、二酸化炭素、日照など複数の環境要因をICTで最適に制御する。本年度予算に建設費やセンサー、ヒートポンプなどの費用約4500万円を計上した。

 第1弾は県内の主要作物であるトマトで試験栽培をスタートさせ、収量増加と品質向上を図る栽培モデルを3年間かけて開発する。県農政課は「都市農業のため、県内では小さい温室を分散して持つ農家が多い。小規模でも収量を増やせる栽培モデルを確立したい」と説明する。

 神奈川の農業は野菜生産が中心で、ハウスを利用したトマトやキュウリ、イチゴなどの栽培も盛ん。スマート農業導入による高品質化や省力化といった期待が高まる一方、設備投資の負担などの課題もある。同課は「費用対効果の見通しが立たずに躊躇(ちゅうちょ)する農業者も多いが、収量を上げて農業所得を増やし、投資分を回収できるモデルを示すことで普及を図っていきたい」と話す。

 近く農業者や研究機関による研究会を設立し、スマート農業普及の課題を整理し対応策も検討していく。


◆「顧客に応える生産者に」 先取り 藤沢の井出さん
 国や県が推進するスマート農業を先取りし、各方面から高く評価されている農家が県内にある。「井出トマト農園」(藤沢市宮原)は、7棟(計約1ヘクタール)あるハウスに環境を制御するシステムを導入し、安定した収量と品質を実現している。

 ハウス内のパソコン(PC)のモニターには、各種センサーが24時間測定する温度や湿度、培地の温度、二酸化炭素、日射などの量を折れ線グラフで表示。ヒートポンプや炭酸ガス発生器、噴霧器、カーテンの開閉などと連動し、12品種のトマトを栽培するハウスの最適な環境を保っている。

 社員7人、パート35人が働く農園の社長を務める井出寿利さん(34)は「モニターを見ればハウス内の環境が把握できる。花や葉、実も実際に見て、PCの設定値を微修正しながらトマトに合った環境にしている」と話す。収穫後は、栽培結果に影響した要因を探るためのデータ検証も繰り返しており、「年々良くなっていくんですよ」とほほ笑む。

 より健康な苗づくりを目指し、外注だった苗を自家栽培に切り替え、早くから育苗に環境制御システムを導入。収穫期間が8カ月半と3倍近く延び、周年出荷体制が整っている。

 井出家は80年以上続くトマト栽培農家。父親の後を継ぐ寿利さんは就農前の民間企業での営業経験から、勘と経験に頼った従来の農業からデータに基づく農業への転換を図ってきた。

 「お客さんとの約束や期待にきちんと応える生産者になりたかった。苗作りに失敗し収穫期が遅れたり、収量の減少を天候のせいにしたりしていてはいけないと思った」。安定した収量と品質は信頼につながり、顧客も広がって売上高は以前の2倍以上に伸びた。

 目下の課題は夏場の収量の落ち込み。再来年の春には涼しい静岡県・朝霧高原に新たなハウスを稼働させ、対応を図る計画だ。スマート農業先進国のオランダを倣い、軒高が5、6メートルと平均の2倍近いハウスでより高い生産効率を目指す。

 「お客さんにとって価値ある生産者にならなければ未来はない」。寿利さんの経営理念は揺るぎない。


ハウス内の環境がグラフ化されて表示される=井出トマト農園
ハウス内の環境がグラフ化されて表示される=井出トマト農園
 
 

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