【登場人物】
森ちゃん:若手のカナロコ編集部員。野毛に興味があるが、一人で店に入る勇気がなかった20代女子。
立さん:ベテランのカナロコ編集部員。大学時代から横浜で暮らす九州男児。野毛歴はざっと30年。
02
武蔵屋
野毛町3丁目
1軒目に向かうのは、横浜屈指の歴史を誇る大衆酒場「武蔵屋」。立さんが20年来通っている店だ。野毛の外れの路地に見えたのは、木造平屋建ての古民家のよう。看板も赤提灯もない。ひっそりとしたたたずまいに、森ちゃんは驚いた様子だ。午後5時の開店を待つ常連客の列に並んだ後、すりガラスの扉を開けて、店内へ。
森ちゃん:あの、お店はここでいいのでしょうか。
立さん:ここが武蔵屋。昔から変わっていない。
森ちゃん:初めての人は絶対に分からないですよね。
森ちゃん:店内も昔のままなんですね。(カウンターに置いてある)人形が「3」を指しています。何か意味があるのでしょうか。
立さん:この店では日本酒が3杯だけ飲めるんだよ。先代からの決まりでね、「三杯屋」とも言われている。
森ちゃん:日本酒は、土瓶を高く掲げながら注いでくれるんですね。人肌ぐらいの温かさでおいしい。でも、どうして3杯だけでしょうか。
立さん:飲み過ぎて体を壊しては困るだろうと、と気遣ってくれているのだよ。
1919年に関内で創業。終戦後の46年に野毛に移った。民家のような木造の店舗は、当時の物資難の中で手に入れた材木で作られた。「3」を指す人形のモデルは83年に亡くなった先代の木村銀蔵さん(享年88)。3杯ルールは、現在、店を切り盛りする銀蔵さんの娘、木村喜久代さん(93)に引き継がれている。横浜市中区野毛町3丁目-133。営業時間:木曜日、金曜日の週2日、午後5時~8時半。電話番号:045-231-0646(店主が高齢のため、臨時休業する場合があります)