気がつけばJR在来線特急の車内販売が数えるほどに減っていた。もともと利益が少ない上、拡大著しいコンビニや駅ナカに押されたのだという。
地元の小さな駅弁屋さんがあおりを受けた。3月末でJR北海道が札幌―網走間の特急「オホーツク」の車販を全廃したため、沿線の遠軽駅で「かにめし」を列車に積み込んでいた老舗業者が店をたたんだのだ。
北海道きっての名物駅弁だった。玉子のそぼろ、紅ショウガをあえたカニ身が彩りも鮮やかにご飯に載っていた。カニの絵をあしらった掛け紙、掛けひもが、いかにも駅弁然としたたたずまいだった。もう食べられないとは…。
経営再建中のJR北海道のこと、経費を減らしたかったのだろう。安全性の確保に注力せねばならないのだろう。けれど、鉄道が背負う責任は単純ではない。その微動が食文化や、ささやかな生活を大きく揺るがすことがある。それこそが、140年超をかけて地域に根ざした鉄道の歴史ともいえる。
何十年か前の鉄道雑誌に「エサなし特急」の語句があった。食堂車を連結しない特急をそう冷やかしたのだ。今や食堂車などほぼ絶滅し、車販の灯さえ消えかかっている。鉄道ならではの魅力とは何だったろう。無念のカニたちが線路端から問いかけている。(さ)