
人呼んで「職人キックボクサー」。川崎市幸区出身で、キックボクシングの日本フライ級王者、茂木宏幸選手(19)が5月17日、東京・後楽園ホールで初防衛戦に臨む。プロの格闘家と、とび職の仕事を両立させ頂点まで上り詰めた茂木選手。1カ月後に控えた大一番へ「川崎に明るい話題を届けたい」と意気込んでいる。
細身の体に切れ長の目。普段は笑顔のさわやかな好青年も、リング上では勝負師に変わる。「相手を観察して弱点を見抜き、徹底的に攻め続ける。あまり性格がよくない方かもしれませんね」と自己分析する。
2012年1月、当時16歳3カ月でプロデビューし、戦績は13戦8勝(2KO)2敗3分け。昨年8月、同級王座決定戦を小差の判定で制し、第6代チャンピオンに輝いた。
「昔は素行が悪かった」(父・伸崇さん)といい、中学2年の夏休み、半ば強制的に本場・タイに送り込まれ、1カ月間の武者修行を経験。「最初はどうにかして帰国してやろうと考えたが、諦めました」と、次第にのめり込んでいった。
だが、格闘技だけで生計を立てるのは難しく、日中はとび職として作業現場で汗し、夕方からは東京都大田区のジムに通う。同級のリミット体重50・8キロ。試合前は10キロ近い減量を強いられるが、「周りに見えないところで努力したことを、表舞台で発揮できる競技。自分には合っている」と意に介さない。
昨年11月に結婚し、守るものはベルトだけではなくなった。2月の試合には、かつて手を煩わせた中学時代の恩師を招き、目標に向かって努力を重ねる今の自分を見てもらった。
だが、その直後に起きた中1男子殺害事件。少年が絡む地元の悲劇に胸を痛め、防衛戦ではこんな思いも内に秘めてリングに立つ。「川崎では悲しい事件があったばかり。自分が勝つことで明るいニュースになればいいな」