横須賀市安浦町の民家でデイサービスを経営している上野冨紗子さん(69)が、認知症の利用者とスタッフの日常生活や、介護への思いをつづった「認知症ガーデン」(新曜社)を出版した。「世間には、『認知症は怖い』というイメージがあるけれど、誰もが通る『老い』の延長にあるもの。一般的な話題として、多くの人に広く考えてほしい」と話している。
子ども向け書籍のイラストレーターの上野さんは、17年ほど前に父親が脳梗塞で倒れて自立歩行が難しくなったのをきっかけに、介護の世界に携わるようになった。
2004年には、空き家状態だった両親宅を活用して定員10人のデイサービス「デイまちにて」を開業。認知症の利用者と接する中で、やがて「人を引きつける何かを持っている」と感じるようになった。
他の利用者に迷惑ばかり掛けていた男性の自宅を訪れると、「一家の主」として来客対応をしてくれた。3年間、何も話さなかった女性がデイサービス内で自分の居場所を見付け、自宅で布団を掛けてくれた夫に「ありがとう」とつぶやいた-。
出版した本には、そんなエピソードとともに、「社会性とは何か」「老いとは何か」といった上野さんの視点や問い掛けがつづられる。
徘徊(はいかい)や交通事故などマイナスの言葉と一緒に語られることが多い認知症。上野さんは「怖いものではない、と知っている人が伝えるしかない。認知症の人に触れ合う機会のない人が現実を知り、考えるきっかけになれば」と話す。
巻末には、こんな言葉が添えられる。〈認知症の人は多くは語らないが、人間の生きるということの不思議について、「普通」の人たちより、はるかに多くの体験をしている〉