鉄道ノートにこういう話があってもいいと思って書く。バルカン諸国を巡ってスロベニアに着いた。ポストイナ鍾乳洞はヨーロッパ最大級とあって観光客でごったがえしていた。その奥深い神秘の洞内に案内するトロッコ鉄道も感動ものだった。
2軸の小さな機関車が引く列車は満員になり次第発車。岩壁の迫る坑道をくねりながらかなりの速度で走る。開けた狭間もあれば、荒削りの隧道もある。身をこごめる。立ち上がったり、手を伸ばしたりしようものなら怪我をする。
トロッコ列車は入り口から2キロほど内部にいざなう。およそ10分の乗車だが、スリルもあって遊園地気分にさせてくれる。終点はコンサートホールと呼ばれる地中の広場。回送用の線路もあった。洞窟に敷設されたこれだけの複線軌道は珍しかろう。
そのあとはガイドに従って歩くこと1時間余。鍾乳洞はかえって人を気鬱にさせるところがあるようにも思う。流麗であればあるほど、それらを形づくった悠久のときの流れに圧倒されるからだ。100年で1センチの成長などと聞けば、私たちの一生など何であろう。
下車後の洞内見学は写真撮影が禁止されているが、他国の団体客はお構いなしにフラッシュをたく。子どもも同じだ。誰も注意しない。「あなたたちも撮ったでしょ」と金髪の少女が口をとがらせた。撮るわけはない。帰りのトロッコに乗って「日本の美徳」を誇りたくなった。(F)