1910年代から横浜中華街で約300台製造されたものの、現在はほとんど残っておらず“幻のピアノ”と呼ばれる「周ピアノ」。ほぼ製造当時の部品のままの貴重な周ピアノが横浜開港資料館(横浜市中区)に寄贈された。2日には周ピアノ創業者の孫・周シュクブンさん(72)=同区=が演奏し、「関東大震災で亡くなった祖父は顔を見ることもできなかったが、こうやってピアノを弾けるのは誇り」と喜んだ。
同館によると周ピアノは、中国・上海でピアノ製造技術を身に付けた華僑の周筱生(しょうせい)氏が横浜中華街で製造を始めた。周氏が関東大震災で亡くなった後、息子が跡を継いだが、45年の空襲で工場が焼失、製造が途絶えた。
2003年に同館が周ピアノの調査を始めてから、「S・CHEW」の刻印が目印のピアノは全国で14台が確認されたが、その大半は音が出ないか部品を交換したものだった。
今回、同館に寄贈されたピアノはほぼ製造当時部品のまま、演奏可能な状態で保管されていた。寄贈者の松尾典子さん(69)=相模原市南区=宅で、最近まで弾き続けられてきたからだ。
このピアノは1933年、松尾さんの母方の祖父・小田野彦也氏が、松尾さんの母・磯部豊子さんの東京音楽学校(現・東京芸大)受験のために中古で購入したものだ。磯部さんは音楽学校入学後このピアノで練習を重ね、結婚後も松尾さんら娘たちとピアノを楽しみ続けたという。
磯部さんが7年前に91歳で亡くなった後、同館への寄贈が決まり、周氏のひ孫に当たる川本麻樹さん(45)=横浜市中区=が調律した。川本さんは「長年弾き続けてもらったおかげで、曽祖父が製造した当時のままの音を聴くことができた」と感慨深げだ。