幌延は「ほろのべ」と読む。北海道の宗谷本線にある。豪雪、極寒の地である。この先、最北の駅・稚内まで続く鉄路は荒涼とした泥炭地を行く。「さいはて」という言葉がよく似合う。一人旅がやみつきになる。
自宅の倉庫でネガフィルムを見つけた。36枚撮りのモノクロ。紙のフォルダーに「1972年12月24日」と記してあった。現像液の酸っぱいにおいがする。鉄道ファンであった約40年前、冬の北海道を旅した。少年時代の記憶をたどりたくなった。
凍り付いた夜、蒸気機関車C55は発車を待っていた。構内の照明灯が黒い巨体を浮かび上がらせる。水蒸気の排出音が人けのない駅に響いたであろう。同じ場面は3カット。発車して遠ざかる場面が続くコマにあり、ここで下車したようだ。撮影ノートは発見できず、ネガから推測するしかない。
幌延の質素な駅前食堂でカレーとラーメンの豪勢な夕食を取ったことはあるが、この夜だったか。クリスマスイブの華やぎは記憶にない。国鉄当時は日本海沿いに留萌に至る羽幌線の分岐駅で、寂れながらも鉄道の拠点だった。羽幌線は廃線となった。幹線だった宗谷本線もいまやJR北海道の地方交通線扱いである。
そのときから幌延を訪れたことはない。最北の地では、天北線など辺境を行く路線が消えた。手元に残る約100本のネガから、北辺の機関車の勇姿を探してみよう。(O)